1.《かなりネタバレ》戦争が引き起こす狂気はこのような形でも表れる。太平洋戦争末期、ビルマやニューギニアなどの南方戦線に於いて、日本兵が飢えに耐えかね人肉を食って生きながらえたというのは有名な話です。規律や統制も、目的も何もない日本の敗残兵達は敵弾に撃たれまいとただ逃げ惑うだけ。しかも口にする物が何もなく、心身共に極限まで追い詰められ次第に精神を侵されてゆく。となると、当然のごとく人肉を食うか食わぬかの選択に迫られる。この極限状態に於ける人肉食い。生き残るため死人の肉を食うことが許されるのか否かは、人により分かれるところであろう。しかし現地人や同胞の日本兵を殺しその肉を食らう。(おそらく死肉は暑さで腐敗がひどく食えず、新鮮な肉を求めた結果がこれであろう) 疑心暗鬼も手伝い文字通り食うか食われるかの世界であり、もう完全に狂ってしまっているとしか思えない。そんな日本兵達だって、元をただせば我々と同じごく普通の人間だったはず。原作は実際に兵隊としてフィリピン戦線を体験した大岡昇平で、監督市川崑による演出。全編オープンロケが放つ印象的なシーンの数々に絶望的な雰囲気描写。そして、ジワジワと身の毛もよだつラストに向けての展開の仕方もさすがだ。反戦という帰着するもは同じものの、情感豊かに描いた同監督による戦争映画の名作「ビルマの竪琴」(56)と対照的な作風と結末。監督市川崑の偉才振りが窺える、戦争の狂気をえぐり出した傑作です。