1.《ネタバレ》 山田洋次とは社会や人間に対する大きなテーマを、市井の人々に溶け込ませてユーモアや哀愁を織り混ぜながら、それらをイキイキとした役者さんに語らせて作品を撮るハズレのない監督だと思っていたので、本作を見終わった時には正直残念でした。
とんでもなく下手な役者さんはいませんでしたが、上手な役者さんもいませんでしたし、彼等が演じている世界からは生気が全く感じられませんでした。
そんな世界観の中でステレオタイプの登場人物が次から次へと出て来れば薄っぺらい作品になるのは当然だと思います。
テーマは誰にでも訪れる死と如何に向き合うかという事と、生きている時には誰にでも居場所が必要で、それは一人では築けないという事でしょうか。
生きる事が下手な人間には尚更難しい事だと思います。
そんなテーマを物語に上手く落し込めておらず、無理矢理に話にくっつけた様に見えましたし、テーマに対する社会状況の説明になってしまっているプロットが多すぎて物語自体に魅力を感じられませんでした。
それぞれの登場人物の話も描き切れていないので中途半端にストーリーが進み、全体的に底の浅い作品になってしまい、深みや広がりではなくただ単に散らかっただけに感じてしまいました。
渥美さんや倍賞さんが出ていない山田監督の現代劇を初めて見ましたが、本作がこの様な印象だったので、もしかして今まで私が評価していた山田監督の作品とは、彼等役者さんへの評価だけだったのかと思ってしまう程でした。
ボーカルが代わったバンドの久々に出たアルバムを聴いて「やっぱり違うな…。」という感覚です。
また、薬局の中から外の道が見えるカメラアングルは、寅屋からの仲見世通りのそれを踏襲したものだと思いますが、殆ど活かし切れていませんでした。(活かそうとしていたカットは有りましたが…)
山田監督には映画の可能性を語っていた「キネマの天地」を見て頂きたいと思ってしまいました。