1.「農薬を使えばよいのに。」「機械を使えばよいのに。」夫婦間ではとうに了解済みのはずの矜持を、愚痴の形で観客に説明することを強いられる夫婦に同情する。キャメラという権力による暗黙の強要。可哀想なことに、逆説的な自慢に聞こえてしまう。企画段階から当然目論見通りというべき結部も、案の定、安易で破廉恥な品性を露呈させている。穿った見方で恐縮だが、余命一年のはずが予想外に寿命の延びた牛に予算不足のスタッフは何を思ったことか、実に興味深い。三年目にして、臨終が近いと連絡を受けたスタッフ達は「久方ぶりに」「勇躍」、現場に駆けつけたという(解説書参照)。町中で、デモの群衆の前に夫婦の牛車を思惑通りに配置させるいやらしい構図。市場で牛が売れないことをあらかじめ見越した上で、ぬかりなく用いられる感傷的な高速度撮影。埋葬場面に立ち入り、墓穴まで覗き込むキャメラの無節操、さらには媚びと阿(おもね)りそのものというべきBGMの挿入。いずれにもスタッフの醜い打算と邪心を感じずにはいられない。