1.「困っている人々」や「阿漕な高利貸し」「横暴な官吏・司法」の姿がほとんど描かれず、さらっと撫でるように話が進んでいくので、困窮、逼迫のほどが伝わってこず、ゆえに音楽ばかり勇ましくとも義戦であるという理屈は分かっても引き込まれる説得力に乏しく、高利貸しを焼き討ちする場面では単なる暴徒との印象さえ受けた。
困民党の幹部たちもひたすらに場当たり的で、とりあえずひと暴れしてみたものの「官軍が来るぞー、わー逃げろー」という感じになってしまっており、総理が洞穴の中で「俺たちはよく戦った」と独りごちても「は?」という感想しか湧いてこない。最後に大砲を一発撃って解散するなどというのは論外で、あれでこの事件が「単に世の中を引っかき回して生き生きとしてみたかった幕末青春物語」に似たような心性にのものに堕してしまっている。
これほどまでに大規模な反乱が起こるほどの世情、時勢とはどのようなものだったかという描写もほとんどない割に、とってつけたように出てくる山県有朋や伊藤博文のステレオタイプな悪役像にも鼻白む。
決定された歴史の中で最後に破局が待つ場合、このような映画ではいかに憐憫、哀惜、悲憤の情を喚起するかが肝だと思うが、この映画はそれに完全に失敗していると思う。音楽だけ哀切でもしょうがない。
この事件に本当に向き合うと、もしかするともっと長尺で、複雑で、陰惨な話になるのかもしれない。それは商業映画向きではないのかもしれない。だけどそれを真正面から描く覚悟がないならはじめから扱うべきではないと思う。これならドキュメンタリーを観た方が、変な印象を与えないだけずっと良い。