2.《ネタバレ》 クマ映画……ではなく、ラブコメ色の強い「子育て映画」って感じですね。
である以上、自分としては好みなジャンルのはずなのですが……
正直、かなりキツかったです。
まず、主人公のアニーに全く共感出来ないというか「嫌な女」としか思えない作りだったのが痛い。
自分に懐いてるグレイヤーを含めたⅩ家を「研究対象」扱いしてるのとか、流石に引いちゃったし「アニーが正しい、彼女は正論を言っている」っていう話の展開に、説得力が無いんですよね。
理不尽なクビを宣告された後、給料を渡された際には大人しく受け取るのも恰好悪かったし……
「僕を置いてかないで」と、追っかけてくるグレイヤーの姿を見たら、車を止めさせ抱き締めてあげるべきじゃないかって思えるんですが、彼女の場合は、ただ泣いて悲劇のヒロイン気分に浸ってるだけなんです。
本当に(どうして、こんなキャラが主人公なの?)と戸惑うくらい、魅力を感じない。
X家に対し決定的な怒りを抱くキッカケが、上述の「グレイヤーと離れ離れにされた事」ではなく「最後に受け取った給料が少なかった事」って描き方だったのにも、幻滅しちゃいましたね。
序盤にて提示された「アニー・ブラドックとは、どんな人物なのか?」という命題に対し、この映画は明確な結論を出さず「私はアニーを知った」「本当の自分を発見出来た」とか、もっともらしい事を言って誤魔化して終わるんだけど、自分としては「懐いてる子供よりも、給料を大切にしてる人物」としか思えなかったです。
こういう場合、主人公のアンチテーゼとなる人物が準主役のように描かれていれば、そちらに感情移入して楽しむ事も出来るんですけど……
本作は、それも許してくれないんですよね。
唯一それに近いポジションだったミスXは「本当にありがとう」「ごめんなさい」「何もかも貴女の御蔭よ」と手紙で伝え、主人公が全面的に正しいと認めて終わっちゃうんです。
たとえ主人公が良い人だとしても、こんな展開になったら「贔屓の引き倒し」って感じがして引いちゃうもんなのに、本作に至っては主人公が全然良い人に思えなかったんだから、違和感しかありません。
というか、最後にアニーがグレイヤーと会おうとしないのも、納得出来ないんですよね。
「いつかグレイヤーとは別れなきゃいけない」って事は示唆されていましたし「これ以上グレイヤーと会ったら、更に別れが辛くなるから」って事かも知れませんが、それって要するに「アニーは本当は子守りなんてやりたくない、大学院に行きたい」という前提ありきな訳で、結局はアニー側の都合というか、グレイヤーを大切にしていないってだけなんです。
グレイヤーがどんなに彼女を大切に思い、懐いていたとしても、エリート女学生であるアニーにとっては大学院に進む前の「一夏の出来事」「給料を貰って、雇い主を研究対象にする為のアルバイト」にしか過ぎなかったという訳で、そんな女性を主人公にされても困っちゃいます。
せめて「子守りを辞めた後も、グレイヤーに手紙を書く」とか「これ以上グレイヤーが自分に依存しないように、あえて冷たい態度を取って別れてみせる」とか、そういう展開だったなら、印象も違ってたかも知れません。
ナニーカメラの映像をミスXが事前に確認せず、いきなり皆で鑑賞するってのも不自然だったし、その映像にて「大切な家族なのよ」とか何とかアニーが説教してるけど、そういうアニーは母親に嘘ついて騙してた訳で(お前が言うな)としか思えないし……
終いには彼氏役のクリス・エヴァンスにすら、全く魅力を感じなかったというんだから、もう吃驚です。
本当に「女性にとって都合が良いだけの、理想の王子様」ってだけのキャラであり、役柄が駄目だと、どんなに好きな俳優が演じていても駄目なんだなって、彼に教えてもらったような気分。
そんな具合に、終盤のアニーよろしく悪口が止まらないというか(文句を言いたいのは、映画を観てるこっちの方だよ)って気分にさせてくれる一品なのですが……
あえて良かった所を挙げるなら
・「メリー・ポピンズ」(1964年)をオマージュする場面で、往年の特撮を彷彿とさせる合成だったのは、クスっとした。
・グレイヤーを演じた子役は可愛らしいし、両親に冷たくされて寂しがる姿は、胸に迫るものがあった。
・自分ではなくアニーの方に抱き着いた我が子を見て、ショックを受けるミスXの姿など、心理描写は丁寧で上手い。
と、そのくらいになるでしょうか。
明らかに破綻してるってほど作りが拙い訳じゃないし、好きな人は好きなんでしょうけど……
自分の感性には合わない映画でした。