1.《ネタバレ》 在日ブラジル人の若者が直面する問題を正面から扱ったものとしては、おそらくはじめてのメジャーな映画作品ということで期待していただけれど、実際には失望のほうが多い内容でした。この作品の残念な点は、不必要なセンセーショナリズム。ブラジル人の若者を追いかけ回す日本人ギャングの暴力もアルジェリアのテロ占拠事件も、本作のテーマを語る上で絶対に必要だったのか、製作者は自問してほしい。むしろ、日本の外国ルーツの若者が直面するのは、そんな極端でベタな暴力ではなく、ほんとうにちょっとした些細なことで、あるいは時代の変化によって、突然に生きる基盤を簡単に失ってしまう可能性があること。それは、リーマンショックのときに多くのブラジル人労働者が経験したことであり、近いテーマを扱った傑作『マイスモールランド』で主人公家族が陥った苦難だってそうだ。近年注目されたウィシュマさんの死亡事件だってそう。その「脆弱性」を描くうえでは、本作のギャングの暴力もテロもただただ「過剰」で、まるで彼らが私たちの隣人ではなく別世界を生きる人たちであるかのように描かれてしまう。それだけでなく、暴力やテロと「外国人」を結びつける不必要な偏見を増幅させる可能性もある。マルコス役のサガエルカスをはじめ海外ルーツの俳優の起用などは高く評価したいけれど、その意識がなぜ物語・脚本へと結びつかなかったのか。ただ残念。