2.《ネタバレ》 やはり最大の難点は、博士の記憶が80分しか持たない事に対する、博士自身と周囲の人間の苦悩、苛立ち、不安感、虚無感、生活するうえでの不自由などが、ほとんど描けていない事。「人の記憶とは何か」という最も描かなくてはならないテーマを追求せず、ただ何となく「記憶よりも今が大切」という安易な言葉の雰囲気に引きずられているだけの作品に思える。
「記憶を失くしても人は生きていける」とか、「今を大切にしよう」という問い掛けは分かるんだけど、「人は記憶と共に作られる」というポイントが描けていないから、記憶を失くす苦悩も伝わってこない。
また、博士の家が資産家で金銭面での不自由が無いという設定もご都合主義的。もの凄くヒネくれた見方かも知れないけど、博士が働けなくても家政婦を雇えるほどの「経済的余裕」があるからこそ、義姉も家政婦も博士を許容していられるんじゃないの?そういう現実面を無視して、「ふたりの無償の愛に感動した」とか「人と人の繋がりが大切」なんて綺麗事を言われても共感できない。仮に博士に身寄りも財産も無いとすれば、あの家政婦が引き取って面倒を見れるのか?「金の切れ目が縁の切れ目」なんて言いたくないけど、それ位は現実的に突っ込んで考えてみるべきじゃないかな?
また、なぜ博士は虹や夕日を数式で表現しないのか?すべての事象を数式で表すくらい、数字に対するパラノイアな描写が欲しかった。そのくせ子供に優しいという面をやたら強調しているので、返って偽善的に見える。
高校生たちのリアクションも優等生的すぎて気色悪い。子役もヘタクソ。薪能のシーンも無駄に長いし、必要性を感じない。
さらに、閉じた心を象徴する「閉め切られた木戸」を開けるシーンでもセリフで説明しちゃうし、作品を通して「前向き」というメッセージ性が強いのに、ラストはモノクロで終わる上に、エンディングも暗い曲が垂れ流されるだけ。ラストもダラダラしないで「これが…、博士の愛した数式です」というセリフで終わらせた方が感動的じゃないか?
感動ドラマとして素直に見ようにも、全体的に演出センスが無いので、突っ込み所ばかりが目に付いて仕方なかった。