10.《ネタバレ》 去りゆく北京原人とマンモスに向かって「走れ、もっと走れ。自由になれ」と佐倉が叫んで終ることから推考すれば、脚本の意図は、北京原人を野生に戻すことが良心に叶った行為であると結論づけ、生命を弄ぶ行き過ぎた科学に警鐘を鳴らすものだろう。
だがその意図は脚本の致命的な過誤により破綻しているので全く伝わらない。
原人は化石DNAより復活されたものである。それも動物の子宮や人工子宮も使わず、時間と粒子を操って短期間にカプセルの中で成育させたものだ。なので彼等は生まれたてで、当然過去の記憶はないし、野生については現代人以上に何も知らない。脚本家は原人をタイムマシンで連れて来た場合と混同しているようだ。そんな原人とマンモスを野生に放つのは愚挙以外何物でもない。
ところで原人などよりずっと重要なものがある。それはDNAから原人を短時間で成人にまで復元できる科学技術だ。これを使えば、人間や動物のクローンがいくらでもできる。世紀の大発明である。蒸気機関車が発明されて産業革命が起きたのと同様のパラダイムシフトが起こるだろう。なのにそのことについての言及が一切無い。この技術を用いる試験に何故北京原人のDNAを選んだのか疑問だ。脳内を映像化する発明も凄いものだ。
陸上競技での活躍、原人と車の追跡劇、マジックショーでの消失、復活マンモスの暴走など、随所に楽しませる事項を盛り込んでいるのは評価できる。しかし、いろんな場面で周到さが足りない。例えばセスナで北京に行く場面でも、免許、航続距離、パスポート、中国の研究所と連絡する周波数をどう知るかなど、何の説明もない。他にも、原人にシャトルのハッチは開けられないだろうとか、北京原人の骨から生まれたから中国人と主張するとか、原人を隔離しないで観光させるとか、原人を復活させてから発表をどうするか考えるとか、疑問の嵐だ。それに現代人と北京原人との恋愛はありえないだろう。まあ、そんなことは忘れてもいいが、気になることがただ一つある。原人が出した百m8秒9の驚異的世界新記録は正式に認定されるのだろうか?原人は人間かどうかの問題を含んでいて深い。と、余計なことを考えされられる迷惑な映画だ。制作費20億円かけて配給収入4.5億円と大コケ。Uu-pa! 原作者、Who are you?