2.《ネタバレ》 前六作に比べて、本作はダントツにレベルが低いと感じられた。
レーゼンビーの降板やコネリーの復活といった迷走振りがそのまま作品に投影され、あらゆる点において中途半端になってしまっている。
我々は、ボンドが様々な困難から奇想天外な方法で乗り切ったり、危機一髪のところで脱したり、ときにはユーモラスにかわしていく姿を見たいのである。
敵も同様に我々の想像を超える奇想天外な方法や派手な方法でボンドを殺そうとするのを我々は楽しみにしているはずである。しかし、本作では、葬儀場で棺に閉じ込められるものの、自力では脱出できず、敵に助けられる始末(ダイヤをすり替えたので殺されないという読みがあったのだろうが、漫談のおっさんは殺されている)。
中盤でのブロフェルドの替え玉を交えたやり取りには多少面白みはあったが(猫までも替え玉を用意している)、その後が正直いただけない内容となっている。エレベーター内でクスリで眠らされた後に地下に埋める予定のパイプの中に放置されるという効果が薄い意味不明な殺し方を企てるのは正直、理解に苦しむ。
ラストにおいても、あのような洋上要塞に潜入するのは困難(普通ならば海から潜るが…)と考えたのか、堂々と乗り込む姿はなかなか頼もしい。しかし、カセットテープのトリックもイマイチ腑に落ちず、その後もある部屋に閉じ込められるが、なんと偶然みつけた出口からそのまま何の工夫もなく出て行ってしまうという流れには呆れるほかない。ガイハミルトン監督の前作「ゴールドフィンガー」でのボンドは何もできなかったことが面白い効果を生んだと感じたが、本作では悪い効果しか生まなかった。
また、最大の問題は、ラストのブロフェルドの扱いだろう。ブロフェルドと本格的に争うのは本作で最後(ユアアイズオンリーの冒頭にも登場するようだが)となるはずだが、この決着では納得がいくはずがない。はっきりとブロフェルドの死を描くことは避け、またどこかで利用しようと考えたのかもしれないが、ボンドの最大のライバルのラストとしては物足りなさすぎる。冒頭では執拗にブロフェルドを追い求めるボンドのテンションの高い姿が描き出されるが、ラストに至っては信じられない急降下をみせている。ゲイ二人やレズ?二人といった悪役は出ていたり、ハワードヒューズのモデルも登場するものの、尖った感じや挑戦的な部分が少なすぎると感じた。