5.小津映画的構図を用いて描かれる、主人公の心情に合わせた静かな佇まい。トキワ荘メンバーの中で寺田ヒロオの視点とはいえ、しんみりし過ぎ。ヒソヒソ話のようなセリフ回しや暗い画面の連続は時に不快でさえある。
ドラマ性を排した演出により、漫画家同士以外の人間関係が無機質で事務的な印象を受ける。昭和30年代、都会とはいえ下町が舞台であり、この雰囲気がこの時代に合うとは思えない。
主人公は“いい人”としてあっさりした描き方であるが、創作者として信念を貫くか時代と向き合い妥協するかの苦悩はあったんじゃないの?それがあまり感じられず物足りない。
お互いの才能がぶつかり、時には助け合う中、世間の評価や本人の向き不向きでそれぞれの道があるのが世の習い。ペラペラ漫画からアニメという新天地への転向を打ち明ける鈴木伸一や、志半ばで挫折した森安の別離は印象的。
赤塚と寺田、この二人の会話がその後の立場の逆転を冷徹に象徴している。それでも、寺田が漫画に対する信念を貫き通したことは、ひとつの見識と解する。
映画の内容から離れるが、寺田の画風を考えてふと思う。ピーナッツ・シリーズのような4コマ漫画に生きる道はなかったのだろうか、と。