2.《ネタバレ》 自分も口下手でコミュニケーション下手なので、厚久のことをあまりとやかくは言えないが、思ってることを口に出せない人間の末路の典型を描いたらこうなるのかなと思いながら観ていました。
どんなに強く思ってることがあっても相手に忖度し、周りの人間にも忖度し、なんなら自分自身にも忖度した結果、何も自分のことを伝えられない、悲しい人間の話だった。また厚久役の彼も、本当に何を考えてるか読めない表情をしていて、そういう意味では適役だったのか、真面目な印象を与えるのに同時に不気味な印象も与える男だった。
「言葉にせずとも態度で伝わる」というような言葉は良い意味でも悪い意味でも時々耳にしますが、この映画は「言葉にしないと伝わらない」ということをひたすら描き続けます。何を言われてもただ黙って人に合わせて受け入れ続ける厚久を見るのはなかなかキツいものがある。
一方、「英語なら本音を言えるのにな」というセリフはなんだかよく分かった。自分も同じような経験はよくある。英語はと言う言語の特性なのか、はたまた単に自分が単純な表現しか出来ず、その分ストレートに気持ちを伝えられるからなのか、あるいはその両方か、とにかく母語よりもなんだか気持ちが言いやすいというのは理解できた。
そんなに好きだった奈津美をストレートに愛してやれなかった厚久も厚久ですが、奈津美は奈津美で大概な女性でした。あんな理由でと言ったら失礼なのでしょうが、あんな理由なら悪いが世間にごまんと溢れていると思う。悲劇のヒロインぶって相手のせいにして、家庭や娘を顧みない、ひどい女だと思った。娘の鈴がほとんど笑顔を見せないことが逆に印象的だった。彼女は何を思っていたんだろう。何が起こっていたのか分かっていたんだろうか、もっと父や母に構って欲しかったのではないだろうか、急に家に来るようになった男性をどう思ったのだろうか、終始無表情で状況に身を置く彼女に気持ちを聞いてみたくなりました。
ラストで娘に駆け寄るシーンも、不器用さ全開でした。何かの映画のゾンビのように不安定に自分に駆け寄ってくるあんな男見たら、たとえ毎日会ってた父親だとしても怖くて逃げ出すわ。自分がどう見えてるかも見えてない、哀れな人でした。
そして、自分もそうなったことがあるが故に、見ていて辛かったです。