1.このシリーズでは、とても大変な世を揺るがすような事態が、小さな狭い世界で展開してそのまま小さく狭く終わるってのが多く、たとえば学校の一クラス、たとえば一つの家庭内。そして今回はと言うと、マネキンリサイクル工場という中小企業内で、赤い富江と黒い富江とが争っている。世界にばらまかれた富江の血が起こした結果にしては、話が小さい。いや、それがいけないって言うんじゃなくて、それにもっとこだわれば面白くなれたんじゃないかと思うの。赤と黒それぞれに心服し服従している男どもがいて、いわば二つの女王国が中小企業の中で戦争しているようなもの。その戦争を描けばこのシリーズに新展開をもたらしたかも知れない。歌舞伎でよく、市井の世話物的な暮らしが実は源氏と平家の武将のせめぎあいだった、っていうのあるでしょ、ああいうのが至って好きなんだけど、ああいったスケールの意図的な混乱によるめまいのような味(普段のものと超絶したものとが簡単に入れ替わり得る世界)が、もしかすると生まれたかも知れないのに、二派の対立ってのは膨らまないで終わっちゃって、いつものドロドロした再生シーンになってしまった。惜しい。パッケージの表記を信じるなら、これでシリーズは終了って言うんだけど、どーだか。