2.日米の予告を見る限りではソリッドなサバイバルアクションをイメージしたのですが、その内容はサスペンスアクションというよりも微妙なアート映画。”言いたいことは分かるんだけど、ねぇ…”という、「シン・レッド・ライン」を見た時と同じような印象を持ちました。主人公は名前も明かされず(エンドクレジットでようやく「ムハンマド」という名前が確認できる程度)、その人生も仄めかされる程度で、話の発端となる峡谷にいた理由も不明。会話をさせると観客にバックボーンを推測されてしまうという監督の判断からセリフは一切なく、それどころか性格すら持たされていません。ただ「生き延びる」という本能だけを持った真っ白な存在として描写されており、映画からはドラマ性が完全に排除されています。「ランボー」を彷彿とさせる前半部分にはそれなりの緊張感や視覚的な刺激があるのですが、追手の姿が見えなくなり、主人公の生存に的が絞られる後半部分にはとにかく退屈しました。この作品の言いたいことは”Essential Killing(必要不可欠な殺し)”というタイトルですべて片が付いています。「主人公は善人ではないし、惨い殺しもやるが、すべて生存のために必要な行為だった。君らは彼の行為を否定できないだろ?”生きる”ってのはそういうことなんだよ」、こういうことなのでしょうが、映画としてのサービスがあまりに欠けているため、ちっとも面白くありません。。。なお、本作はヴェネツィア映画祭で審査員特別賞を受賞しているのですが、「各部門につき受賞作品は一作のみ」というルールを曲げ、審査員長だったタランティーノの一存で与えられた受賞であることは明記しておくべきでしょう。「オールド・ボーイ」のカンヌ映画祭審査員特別グランプリ受賞もそうでしたが、自分の好きなジャンルに極端に肩入れして何か賞を与えようとするタランティーノは、映画祭の審査員には不向きな人であるように思います。