9.《ネタバレ》 人種差別と戦い、さらには身体障害までを乗り越えた実在の人物の物語という、ハリウッドの大好物がご丁寧に二つも並んだドラマなのですが、あまりに平凡な脚色によって題材の良さも優秀な俳優も無駄になっており、駄作と呼ばれても仕方のない出来に終わっています。この手の感動作のテンプレートにでも当て嵌めて作られたかのようなストーリーには意外性ゼロだし、観客を感動させようと用意されたセリフの多くは上滑りしています。そして何より、偏見というものの捉え方が表面的すぎて、この題材から期待される教訓は何ら得ることができません。。。
人種差別の恐ろしいのは、それが社会の多くの人々の意識に住み着いてしまい、普通の人々までが悪気もなく差別してしまうということ。本作のように、差別意識を持っているのがごく一部の心ない人だけなのであれば、それは大した問題ではありません。また、黒人青年側の心境も、時代の空気を考えれば非常に不自然なものでした。主人公は有色人種であるがゆえの壁に度々ぶつかり、彼はその度に戸惑い、そして憤ります。しかし、善い悪いは別にして、当時はそういう時代だったのです。黒人が上を目指せば叩かれることは分かりきっていたはずなのに、彼はそのことが意外だったという顔をするのです。本作の登場人物は、みなナイーブ過ぎはしないでしょうか。。。
身体障害のパートも同様に不自然でした。身体障害者が危険な職務に就けないことには、善悪では片付けられない複雑な事情があります。本人が「努力でカバーする」と主張しても、やはり他の隊員とは同じ条件ではないのです。厳しい言い方をすると、一人の名誉欲を満たすために、何人の手助けが必要になるのかという話になってきます。また、軍隊という特殊な職場である以上は、リスクの高いメンバーを抱え込むことで部隊全体の安全にも影響が出ないかということも考慮しなければなりません。以上の難しい事情があるにも関わらず、またしても一人の憎まれ役にすべての問題を収斂させて、最終的には「めでたしめでたし」で終わり。現実はこれほど簡単ではありません。。。
その他、核弾頭紛失(チューレ事件)という超トップシークレットが普通にテレビ中継されていたり、公式の軍事委員会で部外者が勝手に発言したりと、おかしな場面がいくつもあります。ラストの歩行テストなんて実際にはなかったようだし、脚色が過ぎているように感じました。