2.《ネタバレ》 2008年の南オセチア紛争(ロシア・グルジア戦争)を扱っている。
2022年のウクライナ侵攻と似たところもあるようで、この映画には出ていないが、当時のグルジアがNATO加盟を目指していたということはあったらしい。ただロシアとグルジアの間に別民族の「オセット人」がいるのは事情が違っており、このオセット人とグルジア国家との間で、ソビエト連邦解体時から続いていた紛争の延長であることは台詞でも表現されていた。劇中ではオセット人がどこにいたのか明瞭でないが、少なくとも主人公が北オセチアの空港に着いてから乗ったバスで歌っていた乗客はみなそうだったのかも知れない。
ロシアが関係する紛争ではロシアが悪者扱いされるのが普通だが、だからといってこの紛争でグルジア国家が善ということにもならない。ロシア・南オセチア側だけでなく、グルジア側も民間人を攻撃していたことは国際人権擁護団体の報告にも出ており、それが劇中の無差別なロケット弾攻撃や、地下室の避難民に危険が迫った場面に反映されていたと思われる。ほか直接関係ないが、劇中出た「ベスラン」という地名が2004年の「ベスラン学校占拠事件」を思い出させたのは、周辺の難しい地域情勢の表現になっていたかも知れない。
映画としては戦争映画のようで戦闘場面は結構な迫力があるが、妙なファンタジー映像を売りにするのが軽薄な印象を出している。またドラマの面では、母の愛は何より強いことを表現するために、それ以外の美点が主人公に皆無になっていて全く共感できない。主人公の息子は、この戦争で真のヒーローとは何かを知り、将来は立派なロシア軍人として死ぬのだと思われる。
基本的にロシアの立場で作られているのは当然としても、見た結果としてロシアの味方をしたくなるわけでもない。このほかにグルジアの立場で作ったアメリカ映画もあったようだがわざわざ見る気にならない。
ちなみにクレムリンの場面では、大統領のほかに首相もいたように見える(似ている)。ここでこの戦争に関するロシアの立場が説明されていたようだが、それ自体の意味はわかるとしても、日本人の立場でロシアを擁護する義理は特にない。一方で、このままではロシアが侵略者として非難され、国際的に孤立して新冷戦に至ると警告するスタッフがいたのは悪くなかった。この男が黙らされたのはストーリー的に当然として、こういう異論をあえて劇中に入れた意図はわからなかったが、ここはかなり興味深かった。