1.《ネタバレ》 彼女の名は、ナンシー。貧しい母子家庭に暮らす平凡な中年女性だ。その内向的な性格から結婚はおろか彼氏すらおらず、数年前からパーキンソン病を患い外出もままならない母親からは毎日のように不平不満を聞かされ、派遣で働きながら先の見えない閉塞した生活を続けていた。そんなある日、ナンシーはテレビでとある年老いた夫婦のドキュメンタリー番組を目にする。30年前、夫婦は5歳になったばかりの一人娘を誘拐され、以来ずっと娘の帰りを待ち続けているというのだ。番組の最後に表示された、CGで再現された現在の娘の顔を見たナンシーは、雷に打たれたような衝撃を受ける。「誘拐されたという一人娘は、実は私かも知れない」――。直接老夫婦へと連絡を取ったナンシーは、居ても立ってもいられず家を飛び出すのだった。血が繋がっていない母親は一週間前に亡くなってしまった。もはや自分は独りぼっち。自らの居場所を求めるかのように老夫婦の元へとやって来たナンシーは、彼らに乞われるままDNA鑑定を行い数日間泊めてもらうことに。鑑定の結果が出るのは3日後。果たしてナンシーは本当に彼らの誘拐された一人娘なのか?社会の片隅で貧しい生活を続けていた中年女性と幼い娘を失い悲嘆の中に生きてきた老夫婦、それまで何の接点もなかったそんな彼らの人生の交錯を終始淡々と描いたヒューマン・ドラマ。確かに描きたいことは分かるんですよ、これ。幼いころから虐待され決して幸せな人生とは言い難い生活を余儀なくされていた女性が、本当の両親かも知れないという老夫婦との交流を通していつしか生きる希望を見出してゆくという物語。ただ、残念ながら監督の芸術的センスが圧倒的に不足しております。終始画面が薄暗くて見辛いことこの上ないし、音楽や映像も凡庸で心に残るようなシーンなどほとんどありません。また、主人公はじめ登場人物誰もが人生に対して後ろ向きで決して魅力的とは言い難い。最後のDNA鑑定の結果も、まあ分からなくはないけれど、正直僕は「ここまで引っ張といてこれで終わりかよ!」と思わず突っ込んじゃいました。きっと本当の物語はここから始まるんじゃないですかね?なんだか「起承転結」の「起承」の部分だけを延々引き延ばしたものを見せられただけなように僕は感じてしまいました。題材は良かったのに、料理の仕方がなんとも勿体ない作品でありました。