3.数十年に渡って継続中のシリーズであるため、ファン以外の観客が付いて来ていないという問題を抱えていた本シリーズ。テレビシリーズに縁を持つクリエイターが監督を務めてきた映画版の興行成績は回を重ねる毎に落ちる一方であり、シリーズは本格的なテコ入れが必要な時期に入っていました。そこで、外部のクリエイターの力を借りることでシリーズの再浮上を図ったのが本企画であり、『グラディエーター』のジョン・ローガンに書かせた脚本を『エグゼクティブ・デシジョン』のスチュアート・ベアードに監督させるという、なかなか豪華な布陣が敷かれています。脚本の作りはかなり丁寧であり、冒頭の結婚式でさりげなくキャラクター紹介を行い、シリーズを知らない観客に対して最低限必要な情報を与えるという工夫がなされています。さらには、物語の核心部分に関わるクルーの人数を最小限に留めたり、悪役を映画オリジナルにしたりと、シリーズを知らない観客の存在がかなり意識されています。。。
ただし、映画としては面白くありません。ローガンもベアードもSF畑の人間ではないため、題材を扱いきれていないのです。シンゾンは地球の全生物を滅ぼすという壮大な計画を立て、それは実行される寸前にまでいくのですが、「こいつを勝たせると世界が大変なことになる」という煽りが不足しているために、映画に必要な緊張感が伴っていません。狭い星域でチマチマした戦艦戦をやるだけではなく、銀河的な広がりを見せるカットがいくつか必要だったと思います。また、怒鳴ってばかりで熟慮というものが感じられないシンゾンには、悪のカリスマとしての魅力が致命的に不足しています。異民族の軍隊をまとめあげて地獄の底から這い上がってきた復讐鬼にはどうやっても見えないのです。妖しい美しさを放つトム・ハーディはハマリ役だっただけに、脚本のキレの悪さが悔やまれます。さらには、シンゾンはピカードそのものであり、本作は「過酷な環境に置かれれば、誰もが悪魔になりうる」という深淵なテーマを扱っているものの、もったいないことにこのおいしいネタにはほとんど触れられていません。。。
以上の不出来が影響して本作はシリーズ中最悪の興行成績を記録し、映画版スター・トレックは長い封印状態に入りました。本作の失敗が、2009年の完全リニューアルにつながったようです。