1.《ネタバレ》 70年代東映ラインナップの主柱だった異常性愛路線が行き詰まって、社長の岡田茂はロマンポルノの巨匠・神代辰巳を招いてエログロ路線を踏襲した新分野開拓を狙った企画。もっとも地獄を題材にする10年も前に石井輝男がメガホンを取る予定だった企画の復活だったみたいです。“地獄もの”といえば中川信夫の怪作『地獄』が有名ですが、主要登場人物が全員死亡という展開などはかなり同作を意識して書かれた脚本みたいです。肝心の神代辰巳は本来ドロドロの人間関係や情念を描くのが芸風で、ホラー要素がある登場キャラが多い大作を撮るのに適した人材ではなかったということでしょう。じっさい「最後まで脚本が良く判らなかった」と監督本人が告白する体たらく、興行も大惨敗で岡田社長は「俺の目が黒いうちは神代には絶対東映では撮らせない」と激怒したそうです。 ストーリーは近親相姦と因果応報を縦軸にしたドロドロ愛欲劇ですが、随所にムリというかおかしなところが目立つ脚本です。ほぼ現代の設定なんですが、いくら山間部の旧家が舞台だとしても江戸時代じゃあるまいし殺人やレイプがあっても隠し通して警察も動かないなんてあり得ない。捨て子の栗田ひろみと取り換えられて養護施設に送られた原田美枝子が20年たったらレーシングドライバーになっているなんて、現実味がなさすぎでしょ。しかも、レース中に追い込み過ぎて事故らせて引退に追い込んだ石橋蓮司が、旧家に帰ってみるとその家の長男で異母兄だった!もう笑うしかないです。肝心の地獄のシークエンスも、中川版をオマージュしたような見世物小屋的なチープさで観るとこもあまりないです。どうせみんな死んでしまったから岸田今日子を始め登場キャラたちが責め苦に遭うところを見せてくれたら少しはカタルシスがあったろうに、それとも何人かは極楽の方に行けたのかな(笑)。でもなんも悪事を働いてなかった栗田ひろみが地獄にいるのはなんか可哀そう。ラストで原田美枝子は先に堕ちていた母親と出会えるわけですが、その母親(原田の二役)がひょうきん族のアミダババアにしか見えないのはなんか情けない。まあこの辺りというかラストの展開は、映画としてはほとんど破綻していましたがね。 没にされた石井輝男は99年に念願の『地獄』を苦労の末に映画化しましたが、この作品は色んな意味でぶっ飛んでいてBS・CSでも放送は難しそう、でもぜひ観てみたい。若き日の原田美枝子のあまりに美しい容姿と迫力ある裸体にプラス一点を献上させていただきます。