1.《ネタバレ》 二本立て・三本立て興行を維持するために、末期の新東宝は旧新東宝(大倉貢体制になる前の健全なころ)の作品を尺をぶった切って短縮版にしたうえで改題して再公開するという荒業というか禁じ手を使って配給作品を増やしました。50年代とはいえさすがに監督協会からは抗議されましたが、「脚本の著作権は原作者やオリジナル脚本にあるが、映画としての著作権は資金を出して製作した者、つまり映画会社にある」という強引な主張で押し切っていました。後にお昼の時間帯に東京12チャンネル(今のTV東京)が放映したいわゆる“東京12チャンネルver”の先取りみたいなものですね。『現金と美女と三悪人』という身も蓋もないタイトルに変えられた本作は、オリジナルの尺は100分余りで、つまり三分の一程度がカットされているわけですが、許せないのはこれらの短縮版たちは杜撰な体制だったのでオリジナル・ネガが喪失してしまっていることでしょう。まあどの作品も映画史的に貴重というわけではないのも確かですけどね。 さて本作、三分の一カットされている割にはストーリーは破綻していなくて、まあ編集としては上手いと言えるかもしれません。藤田進が酒浸りの現金強奪犯というキャラを演じているのは珍しい、まだ若いのに既に老け顔の東野英治郎のふてぶてしい悪役ぶりも板についています。唯一の女優である利根はる恵はデビュー直後の出演ですが、とても終戦直後の女性とは思えないそのグラマーな肢体には驚きました。でも細かい描写はほとんどカットされているので、やはりぶつ切り感は否めないかと思います。だいいち、“三悪人”とは誰なのか?という疑問が、二人は判るんですけどねえ。 監督・市川崑、音楽・伊福部昭という組み合わせは珍しいかも、でも伊福部昭の音楽にはすでにゴジラ風味があって笑ってしまいました。