1.《ネタバレ》 映画界における”based on a true story”の範囲はかなり広く、もはや史実とはまるで別の話になっていてもお構いなし。本作もそんな一本であり、80年代のアラスカで発生した連続猟奇殺人事件をモデルとしながらも、事件経過は作品オリジナルです。史実では17歳の娼婦シンディが派出所に駆け込んで証言したことからロバート・ハンセンが捜査線上に浮かび、ハンセンは友人たちにアリバイ工作を依頼するも断られて逮捕に至ったのですが、作品ではシンディの証言が無視されたことから物語がスタートします。また、劇中のハンセンは友人にも恵まれ、警察にマークされて身動きのとれないハンセン本人に代わってシンディの口封じを実行してくれます。ここまでくると実話とは言えませんね。
作品は猟奇殺人の詳細を描くわけでも、捜査の過程を丁寧に描くわけでもなく、クライムサスペンスとしてはボヤっとした出来なので眠たくなってしまいます。一時はシンディと捜査官・ジャックの疑似的な親子関係に焦点が当たるものの、感動的な盛り上がりも明確なゴールもないまま両者のドラマは萎んでいくためこちらも不発。また、ジャックと奥さんとの間には旦那の職業を巡ってのわだかまりがある様子なのですが、こちらも気付けば終わっているためネタ振りのみとなっています。ラダ・ミッチェルという魅力的な女優さんを奥さん役に配置しながら有効活用できていないのだから、もったいない限りです。
さらに作品のテンションを下げているのは馬鹿な登場人物が何人かいることであり、馬鹿が馬鹿なことをしたせいで引き起こされた馬鹿馬鹿しい危機には手に汗握ることができません。シンディはハンセンに命を狙われており、しかも警察からは身を隠すための隠れ家を与えられているにも関わらず、ちょっと気に食わないことがあったからという理由でフラフラと売春街へ戻っていって案の定ハンセンに発見されてしまうのだから困ったものです。そんなハンセンを手伝う友人は、とっくにハンセンが逮捕され、おまけにシンディには捜査官がべったりくっついている状態であるにも関わらず、口封じ目的でシンディの命を狙い続けます。そこまでのリスクを冒してまでハンセンを守ってやる義理とは何なんだと思いますが、とにかく普通ではやらないような行動をとるため見ている側のテンションはダダ下がりです。
ニコラス・ケイジはいつも通りの困った表情で特に代わり映えしないのですが、これが結果的に捜査官役に必要な安定感に繋がっているのだから悪くありません。生理的嫌悪感を抱かせる猟奇殺人鬼になりきったジョン・キューザック、新境地開拓と言わんばかりに体を張ったヴァネッサ・ハジェンズ、ポン引き役50セントのハマり具合もよく、出演陣はなかなか見せてくれます。それだけに、内容の薄さが余計に際立つのですが。かつて『コン・エアー』で全米1位を獲ったコンビが、15年後には落ちぶれてこんな緩いB級映画に出るものかと寂しくなりました。