1.《ネタバレ》 まずクラシックという一般的には敷居が高いであろう題材を描くにあたっての大変な努力の跡は伝わってきました。実際に劇中で鳴っている音はちゃんとしたオケの音ですし、主演を務めた松坂桃李さんも1年間ヴァイオリンを練習しただけあって一応ちゃんと音は出ています(ヴァイオリンはフレットレス楽器なので初心者には大変難しい)。但し、この音楽についても、劇中で流れるベートーヴェンの『運命』は所謂私たち一般人が思い浮かべる『運命』であり、本来破天荒な指揮者という設定の天道が振った音にしては「あれだけ奏者に文句言っててコレでいいの?」と思いました。実際に指揮をした佐渡裕さんは恐らくですが無難な感じで振ったのではないでしょうか。
また脚本がスカスカでいたる所に綻びが生じてしまっています。しかも数々の綻びを一切処理せずに終わるので、観終わった後の感想としては只々不細工な印象を受けました。例を挙げますと、最低の指揮者として登場する天道(演奏者を平気で罵倒する&オーボエのリードを踏みつける)が成長するシーンがありません。よって本来なら演奏者との関係は最後まで悪いままの筈ですが、いつの間にか解散から再び集結するシーンで解決してしまっている。そもそも主人公に設定されている問題が何かがハッキリしていない。コンマスとしての苦労を描きたいのか、父親の様な音が出せないから悩んでいるのか、一流のオケで演奏出来ないから不満なのか、おそらくはそれら全てか。それが天道の過去が描かれるシーンで何となく“イメージ”だけで解決した様に見えてしまう。これは観客を誤魔化しているだけだと私は思います。
あと今時、自転車二人乗りで急いで病院に行くって描写は前時代的過ぎますね。ストーリー上仕方が無いとはいえ、病院でヴァイオリンを弾く主人公も如何かと思います。変なコメディ演出(ヤクザ撃退)とシリアスな演出(震災風景)をごちゃまぜにするのも作品のノイズになっていると思いました。