1.《ネタバレ》 どこの誰だか分からない少年が誘拐される冒頭に始まり、ヒッチハイカー・ジャレッド・レトとエロ本大好き・ダニー・グローバーの珍道中に、市警・保安官事務所の縄張り争いに、何か裏がありそうなFBI捜査官・デニス・クエイドの登場など、多くの構成要素が提示される前半部分の引きは強く、サスペンスアクションの佳作以上にはなるのではないかという期待を抱きました。特にジャレッド・レトとダニー・グローバーのドラマについては、おそらくどちらかが犯人なのだが、双方に怪しい要素があるのでどちらをクロとも決め付けられないという微妙な空気の中で様々なイベントが起こるため、その度にハラハラさせられました。この辺りは、当該ジャンルを得意とするジェブ・スチュワートの面目躍如といったところでしょうか。
ただし、中盤に差し掛かっても一向に話の収束する気配がなくて「本当にこの話は終わるのだろうか」と不安になり、さらにはその後唐突に犯人が明かされて突然締めモードに入るというめちゃくちゃ下手くそな後半ですべてが台無しになりました。この辺りは、脚本だけでなく製作総指揮も監督もすべてジェブ・スチュアートが担当し、完全に「俺の映画」として制作されたために、第三者的な視点で作品全体が精査されなかったことが原因ではないかと思います。この人の経歴を振り返るとおおよその仕事ぶりが見えてくるのですが、元はスティーブン・E・デ・スーザとフランク・ダラボンが執筆した『コマンドー2』の脚本を直して『ダイハード』を仕上げたり、デヴィッド・トゥーヒーがオリジナルを書いた『逃亡者』の脚本を撮影現場に張り付いて手直ししたりと、誰かの仕事を引き継いで完成版へと繋げるという作業にこそ能力を発揮する人物なので、一から作品をクリエイトするということは難しかったようです。
また、グダグダになった後半以降は豪華キャストも無駄遣い状態となっています。まずダニー・グローバー演じるボブの人物像がまったく理解不能。彼は快楽殺人を犯すシリアルキラーであり、自分を追うFBI捜査官との駆け引きをゲームとして捉え、そのゲームの延長線上で捜査官の息子を誘拐したが、殺さずに何か月も手厚く面倒を見ていたり、何かあったらこの子の後見人になってくれとジャレッド・レトに頼んだりもする。そもそも人望はあるようで地元に友達は多いのだが、家族ぐるみの付き合いのある友達をさほど切羽詰まった状況でもないのに口封じのために殺したりと、良い奴なのか悪い奴なのかが不明で、行動原理もよくわからない人物となっています。シリアスもコメディもいけるダニー・グローバーのようなうまい人をキャスティングできているのに、観客にこの人物をどう受け取って欲しいのかを監督が決められておらず、どうにも腑に落ちないキャラクターに終わらせています。
また、デニス・クエイドがモゴモゴと変な喋り方をしているのも気になったのですが、どうやらこれ、ジェブ・スチュアートの第一希望であったスティーブン・セガールをキャスティングできず、仕方なくデニス・クエイドが主演になったという経緯によるもののようです。クエイドがハリウッドに返り咲き、セガールがVシネ俳優になった現在からは信じられないのですが、もっと豊かな演技のできるクエイドから表現の幅を奪い、演技の幅が極端に狭いセガールの真似事をさせるというあまりに勿体ない使い方となっています。
その他、途中までは魅力的だったリー・アーメイ保安官がクライマックスに関係していなかったり、ウィリアム・フィクトナーに至っては見せ場がまったくなかったりと、総じて俳優をうまく動かせていませんでした。