1.《ネタバレ》 主人公が、美しく才能のあるふたりの女性を妻と愛人に持つ、という設定が、まず納得できない。金持ちでもなく、それほどハンサムでなくても、なんとなく憎めなくて、女性をひきつけてしまう男というのは、確かに存在するだろう。でも、ハン・ソッキュ演じるキフンは、ただ身勝手なだけで、どこにそんな魅力があるのか、いっこうに見えてこなくていらいらしてしまう。ラスト近く、閉じ込めらてからの錯乱の演技はさすがだが、それだけが見所、っていうのでは、あまりにさびしい。
イ・ウンジュ演じるカヒが、キフンの妻であるスヒョン(オム・ジウォン)と学生時代に愛し合っていた、と告白する場面がある。回想の中で、真っ赤なシルクのシーツの上でふたりが抱き合うシーンは実に美しいが、それがただのサービスショットに終わってしまったのが惜しい。こういう設定にするのであれば、カヒもスヒョンも、ほんとうに愛しているのはキフンじゃなく、ただお互いを愛するがあまり、間にはさまったキフンをとりあっていただけ、っていうほうが、よほどすっきりする。カヒのほうは、キフンにぞっこんだし、スヒョンのほうは、最後までほんとうはどちらを愛していたのか、はっきりしないままである。
殺人事件の被害者の妻であるキョンヒ(ソン・ヒョナ)との関係も中途半端。仕事以外のつながりがあまりないし、やはり最後に、カヒを失ってしおれているキフンに、駄目押しをするようにショックな事実を告げて、さらっと去っていく、というような場面がほしい。
要するに、女3人とよろしくやっているつもりが、実は3人それぞれにいいように利用されていただけだった、っていう話でもないと、ハン・ソッキュがこの役をやる理由がよくわかんない。仕事はやめたが、妻とは結局どうなったか説明がないし。人格破壊されるくらいこてんこてんにだまされて、職も妻も愛人もすべて失う、っていうラストなら、後味悪いなりに納得いったと思う。
これが遺作になってしまったイ・ウンジュだが、冒頭のシーンの歌が、けっこうよかった。ピアノのほうは、プロをめざした腕前だというし、何度言ってもしかたないが、つい言ってしまう。ほんとうにもったいない。