2.《ネタバレ》 「病院で目覚めたら、世界が破滅していた」
「自分以外の人々が盲目になっている世界」
という要素を抜き出すだけでも、後世に与えた影響の大きさが窺い知れる一本。
勿論、原作小説ありきの発想なのですが「人がいなくなり、乗り捨てられた車だけが残る街を彷徨う主人公」という視覚的なイメージなどは、映画という媒体だからこそ生み出せた代物だと思います。
こういった「元ネタ映画」というものは、それだけでも功績があるというか、高得点を付けたくなるものなのですが……正直、映画として面白かったかといえば微妙でしたね。
1960年代の映画という事もあってか、現代の目線だと「飛行機が墜落する場面」「トリフィドの毒を受けて顔が緑色になる場面」の特撮も稚拙だし、演出も全体的に緩慢なんです。
例えば、最初にトリフィドが動き出し、人を襲う場面なんかも、時間を掛け過ぎるせいで(もう植物が動くのは分かったよ……)(どうせこの人が襲われるんだろう? 早くしてくれ)って感じに、焦れてしまう。
主人公達が車に乗って、迫りくるトリフィドから逃げようとする場面もキツかったですね。
車輪が窪みに嵌って空回りし、ピンチのはずなのに、登場人物が妙に落ち着いているせいで、全然緊迫感が無い。
当時の観客なら、そんな演出の数々も自然と受け入れられたのかも知れませんが、自分としては戸惑いが大きかったです。
その一方で
「目の見えなくなった男が(恐らくは利用する為に)目が見える女の子を誘拐しようとする」
「元から目が見えなかった女性が、新たに盲目となった人に歩き方を教えてみせる」
といった感じに「もしも、世界中の人々が盲目になったら……」という思考実験の答えを示すようなシーンも数々盛り込まれており、こちらは中々興味深く、面白かったです。
(植物が相手なら燃やして倒すんだろうな……)という観客の期待に応えるように、クライマックスでは主人公が火炎放射器を持ち出し、トリフィドの大群を燃やしてみせる辺りも嬉しい。
トリフィドの弱点が「(地球に幾らでもある)海水」という意外性も、良かったと思います。
……ただ、最後のナレーションにて「トリフィドの弱点が分かったお蔭で、人類は救われた」というオチが付くのは、ちょっと無理がある気がしましたね。
作中で文明が崩壊したのは「トリフィド」ではなく「失明」が原因なのだから、トリフィドの撃退法が判明したとしても、そこまで大きな意味は無いはずなんです。
どうしても「人類が救われるハッピーエンド」に仕上げたかったなら「トリフィドの撃退法」なんかより「失明を治す方法」を明らかにすべきだったんじゃないでしょうか。
そもそも本作は「病院で目覚め、女の子と一緒に文明崩壊後の世界を彷徨う主人公」以外にも「灯台で暮らしている夫婦」という別個の軸が用意されており、しかもそれら二つが交わる事無く映画が完結を迎えるという、トンデモない構成になっているのですよね。
これは明らかにマズいと思うし、自分のように(何時この二組が合流するんだろう?)と考えていた観客には、物凄い肩透かし感を与える形になっています。
聞くところによると「灯台関連のシーンは、試写会での不評を受けて無理矢理ハッピーエンドにする為に付け足したもの」らしいのですが、真相や如何に。
自分としては、追加された灯台絡みの話は全部カットして「主人公達が火炎放射器でトリフィドの猛攻を凌ぎ、何とか逃げ出すのに成功して、明日に希望を見出そうとする話」で纏めてくれた方が、好みだったように思えますね。
そうしていたら、胸を張って「古き良き映画」「これぞ隠れた傑作」と褒める事が出来た気がします。