5.《ネタバレ》 着彩版を鑑賞。自分が観た中で最古の作品です。1902年というと、日本は日露戦争をやっていた頃。人類が月に到達するのはその約70年後。映画を見るだけでも特異な体験だった時代に、こんなとんでもないストーリーを上乗せする辺りがジョルジュ・メリエスの志だったのでしょう。
見どころはいくつもありますが、登場人物たちが月から逃亡する際に、崖から地球の海へ向かってロケットを「落っことす」ことが面白かったです。本作の月は大気圏内に浮いているようです。本作より数十年前に書かれたベルヌの「月世界旅行」には、すでに重力に関する記述がありますが、本作はその辺りをスルーして、当時の皮膚感覚としての「月」を表現していたのだと思います。
製作から110年を経て観るとコメディだけど、当時の人には生涯忘れられないワンダーを持ったサイエンス・アドベンチャーだったことでしょう。
以下、余談。本作以後のメリエスは興行的には失敗が続き映画界から去っています。タイトルを見る限りは野心的・創造的な作品が多く認められるけど、実際に見たことがないので内実は分かりません。「ヒューゴ~」はその後のメリエスを描いた作品でした。映画史におけるメリエスの名声と、当時の評価には落差があるようです。110年前のフランスに私がいたらメリエスの新作を心待ちにしたと思うんですけど、そんなタイプはマニアックな少数派だったのでしょうか…。