4.《ネタバレ》 映像はきれいだし、雰囲気もいい。しかし、それらもまずまずといった程度に留まっている。脚本は複雑な割に荒っぽく、とくに後半は話の筋を追うのに必死で、とりえであるはずの映像もなおざりになる。この題材なら世界観を魅せるのを優先して脚本は単純化しても許されただろうに、やっていることがまるでちぐはぐだ。肝心のどんでん返しも新味はない。なにもかもがひどく中途半端だ。
また奇術の描写に堂々とCGを使っているが、それをやったら映画だからなんでもありというのが前面に出てしまうわけで、マジック本来の魅力である不思議さ、幻想性が損なわれてしまう。トリックとも魔法ともつかないぎりぎりの境界線上を描くべきだったんじゃないだろうか。E・ノートンを十九世紀の奇術師に据えるというわくわくするような配役だが、充分に魅力を引き出せているとはいい難い。
恋愛描写に重みがないのも痛い。少年時代に引き裂かれた初恋の相手が現れたからといってそうそう夢中にならない――っていうか幻滅するパターンの方が多いだろう。
そもそもどうしてスティーヴン・ミルハウザーの小説を、どんでん返しがメインの娯楽映画にしようと思ったのだろうか? 別に原作に忠実である必要はないが、これは村上春樹を原作にミステリを撮るぐらいむちゃな挑戦だ。その結果がこの微妙な出来なのだから、なんとも残念としかいいようがない。