3.《ネタバレ》 幕末から明治という時代の激流に翻弄された武士の哀愁の時代劇である。
阿部寛、中井貴一、藤竜也の演技は時代劇として違和感なく好演で見る価値はある。
明治維新後、廃藩置県により依るべき藩も幕府も無くなり武士の身分も剥奪された金吾が何故13年もの間仇討ちをせねばならなかったのか。 それは家禄の復旧でも汚名の返上でも無く、ただ主 井伊 直弼が好きだったから…。
この肝心な動機を示唆する描写が冒頭の近習を裁可する場面だけだった為、説得力が持てず金吾に共感出来ないのが残念だった。 役目を果たせず死ぬべき場所を奪われ時代に取り残された武士が仇討ちに執着するのは、それが残された唯一のアイデンティティなのか。 妻に食べさせせてもらいながらも成さねばならぬ事であったのか…。 そこにはもはや大義も何も無い。 あるのは武士の矜持という妄執である。 十兵衛との出会いにより武士の矜持は残しつつもその妄執からは解き放たれ新たな時代へと踏み出す。 それは同様に時代から取り残された十兵衛も同じであった。 静謐で余韻を持たせるラストは心地よい。 映画に格調を持たせる久石譲の音楽も出色である。
難点は時代考証も丁寧に作ってある為ミサンガは蛇足だった。 ハイライトの桜田門外の変のアクションも斬られた際に流血が無い為リアリティと迫力に欠けた。
金吾の動機に説得力を持たせる演出、場面があればもっと作品のクオリティが高くなれてたのが惜しい作品である。