1.《ネタバレ》 様々な犯罪に手を染め、少年院へと投獄された青年ダニエル。そこは更生とは名ばかりの理不尽な暴力が支配する無法地帯だった。そんな過酷な獄中生活の中での唯一の慰めは、週に一度やってくる牧師の存在だけ。彼の説教に感銘を受けたダニエルはいつしか神の教えに目覚め、出所後はその道に進みたいと決意するのだった。だが、当然前科のある人間は聖職に就くことは出来ない。煩悶を抱えながらも少年院を出所したダニエル。偶然立ち寄った田舎町で彼は、たまたま視察に来る予定の司祭と勘違いされ、そのまま日曜礼拝に参加することに。そしてアルコール依存症に苦しむ町の司祭に頼まれ、彼はしばらく代理としてミサを執り行うことになってしまう。信者たちを前に神の教えを説くうちにダニエルは高揚し生きる実感を得てゆくのだった――。そんなある日、飲酒運転で町の若者6人を巻き添えに事故死した男がまだ葬儀も埋葬も行われていないと知ったダニエルは、社会の分断を取り除くために奔走する。それぞれの心の葛藤に寄り添った彼の言葉は、喪失感に苦しむ事故の遺族たちからも賛同を得てゆくのだった。そんな折、同じく少年院を出所した彼の過去を知るチンピラが現れ……。実話を元に、身分を偽り聖職者として人々の信頼を勝ち取っていった男の運命を描いたヒューマンドラマ。アカデミー外国語映画賞ノミネートということで今回鑑賞。確かに全編に横溢する異様な熱量には圧倒されるものがあります。神の教えに目覚めた元犯罪者がどんどんと村人たちを魅了し洗脳してゆく過程は、新興宗教誕生の瞬間に立ち会った感さえある。それらしい言葉とカリスマ性のみで、身元不詳の怪しげな男に村人たちがここまで翻弄されてしまうのかと思うと空恐ろしい。宗教とは人を救い社会を安定させる側面を持つ一方、指導者次第では危険な道へと突き進む場合もあることを改めて実感させられました。彼の過去を知る少年院仲間や本物の司祭が現れてからは、この先どうなるのかと目が離せません。ただ残念だったのは、後半息切れしたのか、ラストがかなり尻切れトンボに終わってしまったような印象が拭えない点。これら興味深いテーマが最後まで一つに収斂されることなく、何とも散漫なまま終わってしまいました。事実を元にしたとは言え、もう少し脚本を練るべきだったのでは。題材は良かっただけに、何とも惜しい。