29.「人命は地球より重い」と語った昔の政治家もいたが「21g」はまさにそのような映画だった。
誰よりもその重みを知っていたのは、ショーンペンだったのではないか。
自身の余命がいくばくもないと知っていたから、その重みを感じ取っていたのだろう。
だから、妻が中絶という手段を取ったことが許せなかっただろうし、再移植の必要があると説明された時に誰かが死ぬのを待つことは出来ないというセリフに至ったんだろうと感じた。
そして命をもらったことへの感謝とそのために誰かの命が失われたことへの不安が彼をナオミへと突き動かしたのだろう。
だからどうしてもデルトロを撃つことも出来なかったし、ラストあの事態を解決するにはああいう手段をとらざるを得なかったんだろうと感じた。
そして人の命の重さに、もがき苦しむ二人、デルトロとナオミは素晴らしい演技だった。
どんな深い悲しみや苦しみが襲おうとも人生は続いていく。
人が苦しむのもその「命の重さ」によるものなのかもしれないが、人が癒されるのも「命の重さ」であるだろう。
ナオミにとっては、産まれてくる子どもであり、デルトロにとっては神などではなく、妻であり、子ども達という人の命なのではないか。
「アモーレスペロス」の三つのストーリーの時間軸のずらし方は絶妙であり巧妙であったが、今回は何故あそこまで細かく編集する必要があったのかは疑問がある。
テーマも素晴らしく、演技も素晴らしいので真正面から向かっても良かった気がするが、普通の編集だと、あまり大きなストーリーもないのでよくある普通の映画になるかもしれないかな。
この編集によって、観る人に対しての衝撃の大きさと「命の重さ」について考えさせる監督の執念が込められたいい編集なのかもしれない。