5.《ネタバレ》 「何も無い世界」という極端な舞台設定ってのは、まさに白紙のキャンバスと同じで、何をどう描いても構わないけど、逆にその「何も無い事」に囚われてしまいがち。
本当に何も無いままでは話が進まないし、かと言って、線を一本書き込むだけで、ある程度の方向性が定まってしまう。しかしそうなると今度は何も無い舞台の必然性が失われる。そう言う意味でも簡単そうで難しい舞台設定と言える。
今作もその自由の束縛ゆえか、家以外の物体を何も出さなかった(出せなかった?)のかも知れないが、やはり作品としての方向性が定まらず、「生きる目的」とか「現実と理想のバランス」とか「日常の意味」とか、色々と描けたはずのテーマが描かれないまま、中途半端なドタバタに終始してしまった感がある。言ってみれば、映画「ゾンビ」におけるショッピングセンターのシーンを抜き出しただけの内容。
嫌なものなら物質どころか自分の記憶さえも消してしまえる、という能力を作中でもっと上手く扱えば、より深くテーマを抉ることも出来たはずなのに残念。
あえて「逃げ出した先に理想郷は無い」という定番のオチにしなかった可能性もあるが、わざわざ逆説的にテーマを読み解けるほどの深い作品とも思えない。終わり方も蛇足。「謎解きミステリー」か「不条理コメディ」のどちらかに徹するべきだった。色々な意味で中途半端。