4.《ネタバレ》 西川美和監督の「ゆれる」がおもしろかったので期待したが、見終わった時すっきりしなかった。
自分にとって感情移入しにくい設定だったのもあって、いまいち乗れなかった。
最初は特別イケメンでもない男が都合よく結婚詐欺をポンポンと成功させるところから、シンプルなコメディかと思わせる。
ところが、どんどんブラックテイストでシリアスな展開に。
人間の心の深淵をえぐり出すのがこの監督は得意なようだ。
複雑な妻の心情が女性監督らしい細やかな描写で表される。
これがセリフ以外の描写で訴える部分が多く、あえてそうした作りにしているのだろうけど不親切なところが散見される。
説明しすぎでくどいのも嫌だが、不親切すぎるのも曖昧でモヤモヤが残る。
冒頭火事になったシーンで、夫が唯一店から持ち出したほど大事な包丁。
その包丁が夫婦の崩壊を象徴するアイテムとして効果的に終盤で登場。
子持ち女の家に持ち込まれた包丁に、妻の心がかき乱される様がセリフなしに語られる。
ラストの妻の表情は、観る人にいろいろ想像してくださいと放り投げたもの。
この映画は観る者の想像を広げるためにあえて描写を省略させているところが幾つもある。
例えば、夫婦に子どものいなかったのが気になったが、それに関する夫婦のセリフや直接的な描写はほとんどない。
全般的に細かい示唆は散りばめられているが、受け止め方によって違った解釈が可能なところも。
意図的にあれこれ省略して不親切になっているのはわかるのだが、少なくともラストを曖昧なまま終わらせてほしくない。
「ゆれる」のラストもそうだったけど、都合のいいように受け取ってくださいと逃げているようにも感じられ、このやり方は好きじゃない。