2.《ネタバレ》 舞台は1970年代、南フランスのとある小さな港町。田園と漁場以外何もないこののどかな町に、一組の中年夫婦が派手なオープンカーでやってくるところから物語は始まる。夫であるローランドはかつて人気作家として名を馳せたものの今や落ちぶれて酒浸りの毎日、ダンサーとして舞台に立っていた妻ヴァネッサも今では精神的な不調により薬に頼らざるを得ない日々を過ごしている。見るからに不穏な空気を漂わせるこの夫婦、すぐに地元のホテルへとチェックインするものの、もちろん胸躍るバカンスというわけではなさそうだ。ローランドは地元の食堂にすぐさま飛び込むと朝からジンを煽り、ヴァネッサも明らかな抑鬱状態からベッドから起き上がることすら出来ず、二人の間には会話らしい会話すらない。そんな閉塞感に打ちひしがれる二人の隣室に、ある日、一組の新婚夫婦がハネムーンでやってくる。未来への希望に満ちた二人に嫉妬と羨望の目を向ける夫婦は、部屋の壁に小さな覗き穴が開いているのを発見する。好奇心から彼らの情熱的なセックスを夜な夜な覗き見るようになってゆく妻と夫。かつての自分たちの姿を彼らに重ね合わせ、次第に修復の糸口を見出しそうになるのだったが…。お互いの関係に息詰まってしまった一組の中年夫婦のそんな葛藤と退廃の日々を倒錯的に描いた心理ドラマ。アンジェリーナ・ジョリーがメガホンを執り、実生活でもパートナーであったブラット・ピットと夫婦役を演じたうえ、公開直後に二人が実際に離婚してしまったということでいろいろ話題になっていた本作。興味を惹かれて今回鑑賞してみました。まあやりたいことは分かります。古いフランス映画っぽいアンニュイ&デカダンスな雰囲気、そして婚姻という制度への圧倒的な不信感。監督はそういった退廃的な世界から何か新たな思想や価値観を探り出したかったのでしょう。ですが、本作の欠点はそのための端緒には立ったものの、それ以上に深化はしていないところでしょうか。なので何か新しいメッセージ性を感じさせることもなく、全体的に古臭い印象しか残らない。実際に破局の危機を迎えた夫婦――本当のところがどうなのかはこの際置いておいて――が同じような危機に直面した夫婦を演じることで、自らの関係を改めて問い直そうという私小説的な試みはなかなか興味深かっただけに残念と言わざるを得ません。