4.《ネタバレ》 深作欣二監督が壇一雄の私小説を映画化した文芸大作。深作監督の代表作のように言われている映画の一つであるが、一方で駄作との評判もある映画で、実際どうなんだろうと思って見たのだが、とくにつまらないというわけでもなければ、だからと言って特別面白いわけでもない至って普通の凡作という感じだった。しかし、出来としてはあまりよくなく、緒形拳は三人の女の間を行ったり来たりする主人公の作家を演じているが、どうも人物設定がよく分からず、ただのダメ男にしか見えないし、壇ふみ(本作冒頭に主人公の母親役で出演。)のお父さんてこんなダメ男だったのかとなまじはっきりとしたモデルがいるために思わずそう感じてしまう。ドラマとしてもあまり深みがなく、時代背景もよく分からない。おそらく大長編である原作をまとめるのに精いっぱいであったであろうことがうかがえる。音楽もこの映画に合っているとは言い難い。深作監督らしさが出たのはやっぱり緒形拳と原田美枝子のケンカのシーン。やっぱりこの監督はこういう激しいシーンを撮ると、途端に演出がイキイキとしてくる。ラストはなんとなくハッピーエンドで終わる(原作は未読だが、たぶん原作とラストは変えてあるような気がする。)が、ここに至って深作監督はこの主人公に女癖の悪い自己を投影しているのではないかと思えてきた。(言い方は悪いが。)妻のいしだあゆみのセリフである「あなたのなさることはなんでも分かるのよ。」という言葉は実際に中原早苗が深作監督にかけている言葉のように思える。