1.《ネタバレ》 同名の邦題映画が、四つも登録されている事に吃驚。
自分が観賞したのはダニエル・クレイグ主演の青春映画でしたが、丁寧に作られた品であると感じました。
何といっても、登場人物達がデヴィッド・ボウイのファンであるというだけでも好感を抱いてしまいますね。
全編に亘ってノスタルジーをくすぐる匂いが漂っており、こういったタイプの映画としては、安心させられるものがあります。
基本的なストーリーラインとしては「ニュー・シネマ・パラダイス」との共通点が幾つか窺えました。
俳優として成功したは良いものの、今はもう落ち目と見られている主人公が、親しかった友人の死を知らされて帰郷し、そこで若き日の出来事を回想する事になる……といった形。
つまり、この亡き友との絆、友情こそが映画の骨幹となるだろうと予想していたのですが、中盤から彼の存在がどんどん薄くなってしまい、困惑させられましたね。
結局は主人公とヒロインの恋愛、そして人妻との不倫が中心であったように思えます。
それでも、メロドラマとして面白ければ構わないと頭を切り変えようとしたのですが、どうも上手くいきませんでした。
理由としては、まずヒロインとの仲が、それほど濃密には思えなかった事。
自分と同じ曲を好きな女の子、というだけでも主人公が恋心を抱く気持ちは良く分かります。
一緒にレコードを聴きながら口パクし、ブライアン・フェリーとバックコーラスとになりきっている場面などは、本当に楽しそうで良い場面でした。
ただ、そこから更に深い仲になろうとした矢先に、主人公は人妻の誘惑に負けて彼女との約束をすっぽかしてしまう訳で、観ているこちらとしては「そんなの別れる事になるのが当たり前じゃないか」と気持ちが冷え切ってしまったのです。
そこから復縁する展開になる訳でもなく、更に主人公は不倫をし続けて、遂には不倫相手の娘さんの事故死を招く結果となってしまいます。
ここまできたら、流石に主人公に感情移入する気持ちなどゼロです。
何といっても、子供の死に対して悲しみや罪悪感を抱く描写が決定的に不足していたと思いますし、不倫相手の人妻にしたって、死を聞かされて言い放つ言葉が「亭主に責められる……」って、子供を可哀想に思うのが先じゃないの? 自分の保身を真っ先に考えちゃうの? と大いに興醒め。
若い男との情事を楽しみたい母親から家を追い出され、一人遊びの最中に事故死してしまった幼い女の子が、本当に哀れでしたね。
海岸に流れ着いた機雷による爆死などという、非現実的な出来事だったので、実感が湧かなかったのかも知れませんが、もっと主人公達の「子供の死」に対する苦悩も描いて欲しかったな、と思います。
この後、親友に慰められる事となり、そして冒頭に繋がるのだろう……と思っていたら、それすらも無し。
終盤、実は不倫相手だった彼女も、自分が家を飛び出した後に不遇の死を遂げていたと知って、主人公がショックを受ける展開となる訳ですが、ここまで冒頭の「親友の死」を軽く扱うのであれば、初めから彼女の死を知らされて帰郷する形の方が良かったのではないでしょうか。
結局、ヒロインは残された親友と結婚しており、幸せな家庭を築いていた事も明らかになるのですが、帰郷した主人公と、夫を亡くした彼女が再びくっ付く、なんてエンディングにならなかった事には、ホッと一安心。
故郷を後にして、元の生活に戻っていく主人公の姿に「If There Is Something」の歌詞と、それを一緒に聴いた在りし日の二人の姿が重なり合う演出は、心に響くものがありました。
全体的に「好きな映画である」とは言い難いけれど「好きな場面」は幾つも見つける事が出来る。
そんな作品でした。