1.《ネタバレ》 主人公は、ハイスクールのさえない年寄りの用務員のおじいさん。
彼は、劇中で、ちょこちょこと出てくる。
まず最初に出勤前の朝の準備。そのあとは日中働く姿、ひとりでTVを見ながらご飯を食べる姿、夜になってまた掃除してる姿…などなど。
その彼の妄想が、画面の中で繰り広げられる。
妄想の中の女性は、彼が出会って、そして付き合うことなく終わった女のイメージのパッチワーク。
だから、名前も職業もコロコロかわる。
終盤の車の中の場面では、顔さえ変わった。
バーで出会ったという設定は、おそらく彼の人生でバーで出会ったある女性が一番好みだったということだろう。
あるいは、実家に連れてきて両親に会わせるところまでは行ったのかもしれない。
いずれにせよ、うまくはいかなかった。
最後は車の中で、寒さの中で自殺。
「もう、妄想をおわりしよう」「もう生きるのを終わりにしよう」
じいさんのこころの言葉が、この映画の本当のタイトルだ。
妄想の中で、彼女を家に連れてきたジェイクが、玄関わきの棚に置いてあったボロボロの水筒を
「あ…これ見られたくないやつだった」という感じで、引き出しに隠す。
そこには大量の古い水筒があった。
この水筒は、劇中でおじいさんが、TVを見ながら弁当を食べる時に使っていた水筒。
他にもおじいさんの作業服が、妄想の中では地下室の洗濯機の中から何枚も出てきて
現実と妄想が交差する場面がある。
いずれも
”人に見られたくないもの、隠しておきたい、恥ずかしいこと”
の象徴が、用務員をしている間に何個も使ってきた水筒や制服なのだ。
劇中で唐突にはさまれる、男女のバレエシーンや、若いジェイクの芝居や歌は、「オクラホマ!」というミュージカルの有名なシーンなのだとか。
彼が高校の部活で、ミュージカル(たぶん「オクラホマ!」)の練習をしている生徒を興味深そうに見ているところが、時々さしはさまれていたが、ちゃんとあの怪しいバレエダンスも意味があって、おそらくジェイクの大好きなミュージカルなのだろう。
「ダンサーインザダーク」のヒロインは、いやなことも何でも脳内でミュージカル変換していたが、
そういうタイプのおじいさんなんだろう。
ちょっと異色で、ちょっと不気味で、心に残る映画。