1.《ネタバレ》 80歳を超えた老婆ジョーン・スタンリーはある日スパイ容疑でMI5に逮捕される。容疑が信じられない息子で弁護士のニックが取り調べに立ち会うが、そこで母親の驚くべき過去と向き合うことになった。 これは1999年に起きた“メリタ・ノーウッド原爆情報スパイ事件”に着想を得た小説の映画化です。ソ連は1949年にアメリカに次いで原爆開発に成功しましたが、ソ連の原爆開発は米英の原爆開発プロジェクト内に潜むスパイからの情報が無ければこれほど早期に成功しなかっただろうというのが定説で、英国の原爆開発情報を漏洩していたノーウッドもその一人だったというわけです。 この映画と言うか原作小説はこの事件をモチーフにしているに過ぎず、主人公の名前から登場人物および事件の経過はほぼフィクションです。あとこの映画はジュディ・デンチが主演となっていますが、どう観てもデンチとソフィー・クックソンのダブル主演で、過去のジョーンを演じたクックソンの方が圧倒的に出番と存在感がありました。 海外の作品評では「魅力的な実話を当惑するほど退屈な形でドラマ化した」「ジュディ・デンチの圧倒的な才能を無駄にしている」などと酷評されていますが、私もそこまで言っちゃうと可哀そうかなと思いますが当たらずとも遠からずかなと思います。ジョーンをスパイにリクルートしようとするケンブリッジ大学の研究者や外務省の若手官僚などのいかにも胡散臭いキャラたちも登場しますが、どうもこの連中がストーリーから浮いてしまっていたんじゃないかと思います。どうせフィクションならもっとサスペンスを盛り上げるストーリーテリングにした方が良かったと思います。途中からジョーンの夫・ニックの父親が登場しないのが気になっていましたが、ラスト近くでそれが明かされたのが本作で唯一の感銘を受けたところでした。結局はスパイ・ミステリーというよりも、ジョーンの純愛物語だったと言えるでしょう。そして出番は少なかったけど、ジュディ・デンチの存在感はさすがでした。