1.《ネタバレ》 アメリカ公開版を見た(81分19秒)。本来はドイツ語だったらしいが全部英語に吹き替えてある。
SF宇宙映画としては、映像的には同時期の「宇宙大戦争」(1959東宝)に勝るとも劣らない印象がある。無重力の様子や、流星群で乗員が翻弄される場面はうまく作っていた。また金星の地表では、光る雲や霧のようなものが流れていくとか、大小の黒玉が積んであって金光りするなどファンタジックな風景が楽しい。物語面では短縮版のせいか、医師と宇宙飛行士の関係性や、医師が月面で体験した悲劇が後に生かされないといった不審な点もあるが、全体的にはわりといい感じの映画と思った。
しかし、そもそも何で日本人が主演なのかなど腑に落ちないこともあり、もとの映画(93分)はどうなっていたのか一応調べた(主にWikipedia英語版、ドイツ語版、ポーランド語版より)。
まずロケットは本来ソビエト連邦が提供したもので、アメリカ以外の全世界が協力して金星に送ったことになっていたらしいが、アメリカ公開版では当然そのような話は隠している。また登場人物の国籍をかなり変えて共産色を排除したようで、もとは船長がソ連人だったのをアメリカ人ということにし、製作国であるポーランドのエンジニアはフランス人に変えてしまっている。同じく製作国である東ドイツの宇宙飛行士(東独空軍の複座練習機MiG-15UTIに乗って登場)もアメリカ人に変えていた。
その一方で、もとはアメリカ人だった人物をオルロフという名前にしてソ連人っぽくしていたが、このアメリカ人はかつてマンハッタン計画に携わった過去があり、その贖罪を志していた良心的な人物だったらしい。さらに原爆の関連では、日本人医師は11歳の時に広島で被爆していて、産んだ子には障害があった(死産?)という悲しい設定のようだったが、そういう広島原爆に関する箇所は全部削除されたとのことだった。
このアメリカ人と日本人は劇中それほど活躍しなかったが、それでも映画冒頭で主演扱いだったのは、もとのテーマに関しての重要人物だったからとも取れる。広島原爆を思わせる人影の場面はかろうじて残していたが、これはテーマの表現というよりも、金星人が人型の生物だったことを示すものとしてSF的に重要と思っただけかも知れない。
原作者としては、もとの映画は政治宣伝色が濃すぎて気に入らなかったらしいが、少なくとも日本では、広島原爆のことを前面に出して公開していれば好意的に受け取られたのではないか。たとえていえばこのアメリカ公開版は、本家「ゴジラ」(1954)を都合よく編集した「怪獣王ゴジラ」(1956米)のようなものかという気もしたが、しかしもとの映画のままであれば、広島原爆を共産圏のプロパガンダに都合よく使われたように見えたかと思ったりもする。
そのようなことで迷った結果としてどっちつかずの点数にしておく。