2.《ネタバレ》 「エレファント」と「ラストデイズ」の残滓のような「パラノイドパーク」で、クリストファー・ドイルよりも、やはりガス・ヴァン・サントはハリス・サヴィデスなのだと感じた。
「ミルク」はガス・ヴァン・サントがインデペンデントの世界から舞い戻ってきた商業的映画だ。であるからこそ、ヴィスタサイズで撮られている。しかしファーストショット、キャメラはハーヴェイがいるキッチンの手前の部屋に据えられ、ヴィスタの両サイドに映る扉やら壁やらは光を失い暗部へと落ち込み、もはやスタンダードになっている。この時、構図自体が明らかにスタンダードを意識しているだろう。このショットを見て、いくら商業的になろうとも、彼の映画に対する精神は揺るぎないのだろうと感じた。
そして、この映画にはハーヴェイのクロースアップを真横から撮らえたショットがふたつあった。あまりにも印象的なので、恐らく誰もが記憶に留めているだろう。それはスコットと出会ったときと、死に際である。このふたつのショットに通じ合う大きな意味というのは感じられないが、8年間の始点と終点となっていはいるだろう。
デビュー作「マラノーチェ」から始まり、ゲイを描き続けているガス・ヴァン・サントにすれば、このハーヴェイ・ミルクを描くことは彼にとってみれば、あるひとつの到達点だったのかもしれない。
男同士のラブシーンの恍惚さや、ガラスやホイッスルの反射など、これらもまた彼の映画に対する精神の揺るぎなさと言えるだろう。
生の中で垣間見えてくる死を描くことで、生きることの美しさを描くのがガス・ヴァン・サントだ。
ハーヴェイの「40歳になってもなにひとつ誇れることがない」という言葉から始まるこの映画は、ゲイムーヴメントを担い、自分が必要としたものを追い求め、自分を必要としてくれる人たちのために、最期の8年間を誇りに満ち溢れるばかりに美しく生き抜いていく彼の姿が躍動的に描かれていた。