1.《ネタバレ》 刑務所を舞台にした映画なのですが、囚人である主人公の目的が「脱獄」でも「無罪の証明」でもなく「無事に刑期を務め上げて出所する事」なのが珍しいですね。
子持ちの美女との結婚を控え、仕事も順風満帆だったのに、強盗への過剰防衛が原因で逮捕され、幸せな日々が一変してしまうという喪失感。
何とか刑務所での生活に順応し、あと四ヶ月で仮釈放という段階になって、更に六年の刑期を延長された際の絶望感。
どちらも丁寧に描かれており、主人公に自然と感情移入出来るよう作られていたと思います。
若い頃は細身の二枚目という印象の強かったヴァル・キルマーが、この作品では貫禄たっぷりの「先輩囚人」を演じている点なんかも良かったですね。
ルックスに頼らぬ確かな演技力を見せ付けており、二枚目俳優から性格俳優に転身した事を証明してくれたかのようで、感慨深いものがありました。
看守によって家族の写真を奪われても、家族の記憶だけは決して奪えないと話す件なんかは特に素晴らしく、本作の白眉ではなかろうか、と思えたくらいです。
そんな先輩囚人とは対照的に、最初に親切にしてくれて、所謂「相棒」ポジションになるかと思われた男が最低な奴だったりと、適度な意外性を盛り込んだ展開になっている辺りも良い。
刑務所では「白人と黒人」「看守と囚人」が争うのは当たり前だというルールを徹底的に描いた上で「白人の囚人」である主人公を「黒人の看守」が助ける場面をクライマックスに持ってきたのも、上手い構成だったと思います。
「悪徳看守も、我が子に対しては優しい父親であり、彼には彼なりに囚人を憎む理由がある」
「義理の母が主人公に冷たいのは、自分がシングルマザーとして苦労してきたがゆえに、娘に同じ苦労はさせたくないと考えているから」
などといった具合に、脇役の人物描写が丁寧であった辺りも、映画の質を高めていたんじゃないかと。
ただ、ヒロインである奥さんも働いているし、子供も一人だけなのに、たった一年くらいで家も車も売らなきゃいけないほど経済的に困窮するってのは……流石に、ちょっと不自然な気がしましたね。
この辺り、現代日本とは異なる社会だからこその展開なのかも知れませんが、もう少し説得力のある描き方をして欲しかったです。
あと、主人公と先輩囚人の「友情」の描き方も物足りなくて、ラストに「我が友」と呼んで終わるくらいなら、もうちょっと二人の絆というか「仲良くなっていく過程」を濃密に描いて欲しかったですね。
「主人公だけでなく、刑務所の外にいる妻も苦労している」「主人公と先輩囚人との友情」という、映画の根本に関わる部分の描写で物足りなさを感じてしまったのは、非常に残念。
「隠れた良作」という、映画オタクの心を刺激する一品なのですが、誰もが知る傑作ではなく、隠れた形になっているのも納得出来るような……
そんな一品でありました。