1.どうも仲代達矢が漁をしていた海の男に見えない。いまでは地方でも老人がああいうインテリめいた眼鏡をかけていても自然なのかも知れないし、しゃべり方なんかも一生懸命第一次産業従事者めいた語り口をしてはいるんだけど、カップ酒よりもコーヒーが似合ってしまう。当人は初めてコーヒーを飲むと言っても、実はいつも書斎でコーヒーを飲んでいそう。リア王になるべき人が老漁師のふりをしてるみたい。まして足を引きずって歩くと、映画史的に『炎上』でのインテリ学生を思い起こしてしまう。この主人公の設定が面白いのは「甘えたじいさん」を、どことなく肯定的に捉えているところだ。孫のお荷物になりたくないと家を飛び出した主人公は、一見「毅然として」いるようでいて、実は親族に甘えられると思っているその「可愛げ」がポイントだろう。「毅然」が苦手な私としては、このじいさんの甘えぶりが頼もしかった。孫に心配かけて本人はいつもモリモリ食ってる。でも仲代だと、本質が「毅然として」いて、それに「甘え」のメッキが掛けられているように見えてしまう。これに出た役者でなら、大滝秀治のほうが良かったんじゃないか。全体、良作ではあるが、なにかNHKが祝日にでも放送する単発ドラマ的な「コクの薄い良作感」が漂う。