4.《ネタバレ》 憎まれ役たるジョン・デュポンが最高すぎます。そもそも根性がネジ曲がっている上に、自分は権力者だから何をやっても許されるという妙な自信もあって、やりたい放題が止まりません。デュポン本人に似せるためのガチガチの特殊メイクによりその顔は能面のように固まり、表情が読めなくなっていることもこの人物の恐ろしさの表現に貢献しており、莫大な富と権力を持つ異常者が何にキレるか分からないという緊張感が全編を貫いています。
よくよく考えてみれば、ジョン・デュポンは気の毒な人です。セレブパーティーでの立ち居振る舞いや、選手に向けての演説を見れば、決してバカではないことはわかります。普通の家に生まれついていれば程々に生きることもできたのでしょうが、彼は全米屈指の名門に生まれてしまった。最高でなければ許されない環境に生まれついてしまった凡人。上からはバカ扱いされ、下からは心にもないおべんちゃらばかり言われて50年も生きていれば、おかしくなっても不思議ではありません。
そんな中で出会ったのがマーク・シュルツでした。兄のデーブばかりが持て囃され、金メダル獲得という最高の結果を残しているにも関わらず金銭的にも人間的にも恵まれない境遇にいる孤独なアスリート。人間的な欠陥を抱えるジョンとマークは、出会うや否や、共依存の関係となります。ジョンによる破格のオファーは、「自分は能力と実績に見合った評価を受けていない」というマークの不満を解消するものだったし、そんなマークがスポーツ振興を掲げるジョンの主張に心酔したことは、ジョンの自己承認欲求を満たしました。もしかしたら、ジョンが心からの尊敬を受けたのは人生で初めてのことだったのかもしれません。
しかし、ダメ人間の二人では厳しい競技の世界で勝ち続けることができませんでした。スポーツファンの域を出ていないジョンは指導者になれなかったし、マークは自発的に物事を考えることができず、指導者不在でトレーニングが進みません。どうしようもなくなって呼ばれたのが兄・デーブですが、デーブはすぐにマークの支えとなり、ジョンとマークの依存関係は崩壊します。これがデーブ殺害のきっかけとなったようです。
問題は、映画としての面白みに欠けていたこと。存命中の関係者がいるため事実関係への配慮が随所に感じられ、映画としてのイベント作りが不足していました。雰囲気作りは良かっただけに、もう少し面白ければ。