1.《ネタバレ》 原題”Big Bad Wolves”は単数ではなく複数であることがミソ。本来は被害者側に居たはずの人間が、復讐をしている内に自らもオオカミの側に立ってしまうという善悪のボーダーレス化が本作のテーマであり、その点ではドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『プリズナーズ』と共通しているのですが、味付けがまったく違うために完成した作品はまるで別物となっています。
ひたすら情念の世界だった『プリズナーズ』とは対照的に、本作では暴力そのものが目的化していく過程が描かれています。本作が異様だと感じたのは、少女の猟奇殺人事件を題材としながらも、その被害者家族にも、これを捜査する刑事にも事件そのものに対する怒りや悲しみというものが描かれておらず、彼らが「愛する娘を殺された」という絶対正義を笠に着て容疑者への拷問を楽しんでいるように見えるという点です。監督は、感情面でのリアリティを放棄してまで善悪のボーダーレス化という主題を描いており、この異様な構図を受け入れられるかどうかが、本作を楽しめるかどうかの大きな分水嶺になっています。
この監督の真意は、イスラエルとパレスチナの関係を描くことにあったのではないかと思います。双方、報復のやりあいとなっていますが、どちらにもそうせねばならない大儀がある一方で、復讐や暴力そのものには快感や中毒性があり、大勢がその快感に飲まれているのではないかと。例えば、被害者の父親は「犯人を同じ目に遭わせてやるんだ」と言って毒入りケーキを作り始めますが、ケーキを作っている過程がとにかく楽しそうなんですね。また別の場面。偶然、拷問の現場にやってきた被害者の祖父が、最初は「お前ら、一体何やってんだ」とか言いながらも、拷問がちょっとした手詰まりを迎えると「火責めは試したのか?」と言って、こちらも実に楽しそうに犯人の皮膚をバーナーで炙り始めます。
上記の通りなかなか捻じれた作品であり、感情面でのリアリティを放棄しているために映画としては面白くありません。しかし、製作国がイスラエルであるということが暴力に関する考察に説得力を与えており、鑑賞に意義はあったと言えます。