1.《ネタバレ》 彼の名は、マーク・ホーガンキャンプ。豊かな想像力と細部にまで拘った唯一無二の世界観によって人気を博す人形写真家だ。第二次大戦中のベルギーの小さな村マーウェンを舞台にした、魅力的な女性ヒーローたちがナチと戦う一連のシリーズは特に人気だった。近々ニューヨークで個展を開くことも決まり順風満帆に見える彼だったが、その私生活は決して順調とは言えなかった――。そう、彼は数年前にバーで男どもに因縁を付けられ、生死を彷徨うほどの酷い暴行を受けたのだ。以来、過去の記憶もなくなり、精神の安寧のためには薬も手放せなくなるほど心に深い傷を負ってしまったマーク。郊外の一軒家で誰にも心を閉ざし独りぼっちの生活を送る彼だったが、それでも想像の中にある自分だけの世界、マーウェンに居れば幸せだった。だが、残酷な世界はそんな彼の空想の中にまで侵食してきて……。実話を基に、孤独な写真家の想像上の世界と現実との葛藤を独創的な映像で描いたヒューマン・ドラマ。監督はエンタメ映画界の名匠、ロバート・ゼメキス。冒頭から緻密に再現された、主人公が創り出した人形写真の世界観にまず圧倒されます。明らかに人形の登場人物たちがいきいきと動き喋りまくるんですから、この最新技術の粋を極めたであろう映像はさすがロバート・ゼメキスといった感じですね。悪逆非道のナチスどもと戦う五人の女性たちもそれぞれ個性豊かで、彼女たちを率いるアメリカ軍大尉のいかにもプレイボーイ然としたところも大変グッド。そんな人形たちの世界をひたすら引きこもって創造し続ける主人公の偏執的な感じなど、この残酷な世界から必死に逃れようとしていることが痛いくらいに分かり、なんとも切ない。なんとなく僕は、アウトサイダー・アート界の伝説的人物、ヘンリー・ダーガーの創り出した「ヴィヴィアン・ガールズ」を思い出しちゃいました(知らない人はレッツ検索!)。ただ残念だったのは、後半の展開。物語の焦点は、酷い暴行を行った男どもの裁判に主人公が出廷し証言するのかどうかというところになるのですが、それが空想世界内におけるナチスとの闘いといまいちリンクしきれていない。それに向かいに住む女性とのラブストーリーも正直微妙だし、彼女に付き纏うDV彼氏の扱いもなんとも中途半端。このポップでありながらどこかフェティッシュな独創的な世界観は非常に魅力的だっただけに、惜しい!