1.《ネタバレ》 以下私なりの解釈です。誤読ご容赦ください。また未見の方はご注意ください。
「生命を脅かすもの」や「理解できないもの」に対して私たちは恐怖を覚えます。本作は後者のタイプ。徹底して意味不明な展開に終始しており所謂「不条理系ホラー」に該当しました。ただ解釈は可能です。テーマはおそらく「年金制度」かと。「納税」や「国民皆保険」でもおおよそ当てはまりそうですが「老婆の出産」が判断の決め手となりました。
年金は世代間扶助。高齢者を現役世代が支える社会保障制度です。この観点で解釈を試みると物語は実にクリアとなります。横断歩道を渡る老婆への若者の気遣いは「年金制度」の理念を示していますし、生贄が中年男性から若者へ変わったのも昨今の社会情勢を反映したもの。そして前述した「老婆の出産」。ご丁寧にも分娩する老婆を大人2人が馬となって支えています。もちろん老婆が出産できるはずもなく『いくら高齢者を手厚く支援したところで喫緊の課題「少子化問題」など解決しませんよ』という強烈な皮肉が見て取れます。ちなみに世捨て人となった伯母さんは国民年金未払い者。社会不適合者の末路は哀れでした。主人公を「制度の主旨を理解せず批判だけする者」と捉えると、家族を含めた彼女の周りの冷ややかな反応も腑に落ちます。お気持ちで現状を否定するだけならば、彼女は確かに「お花畑」かもしれません。
年金制度を「誰かの不幸の元に成り立つ幸せ」と断じてしまうのは流石に暴論です。しかしそう言いたくなる気持ちも分からないでもありません。制度が破綻して血を流すのは受益者も負担者も同じ。それなのに皆他人事。危機感の欠如こそ最上級のホラーであります。目と口を塞がれ搾取される現状は、やはり正常とは言えません。たぶん年金制度自体は崩壊しないでしょうが、大きく様変わりし割を食う世代が出るのは必定です。それでも社会保障を維持する恩恵は一般大衆にとって絶大であり、ドロップアウトした伯母に比べれば「圧倒的にマシ」という現実は動きません。釈然としなくとも、これが「最大幸約数」なのです。この事実を受け入れることが「大人になる」なのでしょう。そんな大人になりたかったか?と問われると口籠ってしまいますが。幸いにも私たちに「最大幸約数」を増やす手立ては残されています。行きましょう。選挙。
解釈しない素の状態では「不条理ホラー」。解釈を加えると「風刺コメディ」に変化する二面性を持った作品(「パンケーキ食べたい」はコメディ宣言でよろしいのですよね)。まるで食べている途中で味変できるラーメンのよう。なかなか凝った意欲作だと思いますが、味変したラーメンが元に戻らないように解釈を試みた後はホラーには戻れません。そういう意味ではホラー直球勝負でも良かった気がします。画作りや演出のセンスを見るに監督に「ホラー適正あり」と判断しました。何より古川琴音さんのホラー適正が◎ですし(偉そうですみません)。