3.《ネタバレ》 随所に実録映像、時事ニュース映像、新聞記事を挿入し、戦後日本の混乱期の世相を伝えている。一家庭が崩壊する姿を描いて、「日本の悲劇」とはいかにも大仰である。その意図は、個人の悲劇を「世の中のせい、政治のせい、戦争のせい」とみなし、個人の不幸の責任を国家が負うべきだと考えているのだろうか。そこまで極端でなくとも、責任の一端は国家や政治にあると訴えたいのだろう。結論から言えば、実録映像等などは一切不要である。戦争未亡人春子一家の悲劇を粛々と描けば、それはそのまま国家批判、世相批判につながるからだ。そもそも個人の不幸と国家を同一には論じられない。
主題は家庭の崩壊である。春子にすれば、戦後の混乱期の中、女手一つで二人の子供を育てるのに死にもの狂いだった。二人を盲愛し、その将来を心配する余り、我武者らに闇屋をやったり、売春めいた行為に走ったり、子供達を義理の弟夫婦にまかせて住み込みで旅館の中居になったり、相場に手を出したり、気が付けば海千山千、世間の裏表を知り尽くした女丈夫になっていた。娘にすれば、闇屋や売春行為などをする母親を到底許せるものではない。また、従兄に強姦された傷心から人を信じることが出来なくなってしまった。一方で不倫相手との逃避行にも惹かれる。息子にすれば、大学には行かせてもらったものの、医師になれる将来性は無く、老医師の養子に入るしかない。母の婚前交渉による妊娠は不潔である。客観的に見れば、母親が二人の子供と別居したことが最大の問題である。これにより二人は母親に見放されたと思い込んでしまった。電話や仕送りでは愛情は伝わらない。膝下において育てることが重要である。二人に去られたことで、生き甲斐を喪失したと感じた母親は咄嗟に鉄道自殺してしまう。娘も息子も生きているのだから、自殺するほどの境遇では無いと感じたので意外だった。同情の念は浮かばなかった。演技は達者なものの、主演女優に魅力がなく、終始退屈に感じた。こうした役柄は同情を引きやすい、可愛い手合いの女優が演じるのがよい。この母親にして娘が美人過ぎる。