3.《ネタバレ》 台湾の高校(高級中学)の歴史教科書(2018年版)を日本語訳した出版物を読むと、文化の発展に関する記述の中で、「悲情城市」(1989)の後にいったん低迷した台湾映画界を再興した映画として特記されている。
しかし教科書に載るほどの歴史的映画にしては軽めの映像・演出・展開で、時間は長めだが重苦しさがないので一般受けするのはわかる。笑わせて盛り上げてから泣かせるタイプの娯楽映画であり、ジャンルには「コメディ」がないが入れた方がいい(IMDbではComedyが最初に出ている)。自分としては三つ子が別々の方向に走ったところは笑ったが、しかし黒人女性に関するギャグは現在だとポリコレ違反の恐れがある。
物語としては、台湾島南端の屏東県恒春鎮(劇中では単に「恒春」)の周辺住民で無理やり作った速成バンドが、各種問題を適当に乗り越えて最後にライブを大成功させる展開になる。そこに第二次大戦時と現代の二組の男女の恋愛を重ね合わせ、かつての悲恋が時を隔てて成就した形を作ったらしい。
登場人物には老若男女を揃えてあり、またエスニックグループとして先住民や客家人も入っている。そのように、いろいろな人々からなる台湾の住民が最後に皆で一体感を出していたのはいいとして、何でそこに日本人がいなければならないのかは不明である。日本人の立場からすれば、そういうのは内輪でやってもらえばいいのではと思うが、しかし虹でつながった日台間をここで再び結ぶ意図が初めからあったようではあり、また例えば、かつて外から来た日本人が台湾の人々をまとめるきっかけになったのをここで再現しようとしたとも取れる。
ただし劇中日本人が変な奴ばかりなのは何かと苛立たしい。感情が激昂してなお言語明瞭に相手を罵倒し続けるのは日本人的とは思われず、これはヒロインがすでに現地に同化しつつあると思うしかない。ちなみに日本人が面倒くさい連中だと思われていることはわかった。
台湾の人々にもいろいろ考えはあるだろうが、少なくともこの映画では日本がわりと肯定的に扱われているようではある。特に悪気もないらしい。
ほか個別事項として、披露宴の場面で壇上の美女が歌い始めたのは、「熱帯魚」(1995)でも聞かれた日本の昭和歌謡「恋をするなら」(1964)のカバー曲だった。よほど台湾で人気の出た曲らしい。また夜の海辺で酔っ払いの男が思いがけず優しくされる場面があったが、こういうことをされたらおれでも泣く。