1.シリーズ通してひたすらに貫かれた“ワンシーンワンカット”という手法(意気込み)。登場人物たちの生々しい姿を切り取ったその手法と効果は、3作目にして極まったと思う。
主人公がイベント会場にこっそりと立ち入る場面から始まる十数分に渡るクライマックス。気が遠くなる程に延々と緻密に組まれたロングテイクが物凄かった。
まずこれまでのシリーズ作品とは明らかに一線を画す程にハードな映画世界に面食らった。
想像を遥かに超えたバイオレンス描写から物語は進み、主人公をどんどんと奈落の底へ叩き落とす。
「もうどうしようもないじゃないか……」と愛着のあるキャラクターの転落劇に、思わず気が滅入ってしまった。
入江悠監督の方向性はシリーズ通して終始一貫している。
日本語ラッパーの現実とそれに伴うであろう悲喜劇を真摯に捉え、主人公たちに決して安直な帰着は許さない。1作目、2作目同様、映画が終わっても主人公が抱える問題は一切解決してない。
ただ、それでもその先を生きていかなければならない。彼らに与えられるのは、その一筋の光とも言えない現実的な一つの「道筋」だけだ。
でもその厳しさこそが、このシリーズがラップという音楽に対する造詣に関わらず多くの人に勇気を与え、愛される理由だと思う。
と、映画としての価値の高さを認める一方で、個人的には一抹の不満も残る作品でもあった。
意欲的に描かれたハードな世界観は、実際の現場の人たちからするとある程度「リアル」な描写らしいが、知らない者にとってはどうにも「非現実感」を拭うことが出来なかった。
ハード描写そのものに現実感が無かったというよりも、その世界とこの映画シリーズのレギュラーキャラクターたちが絡むということに現実感を見出せなかったように思う。
主人公にのしかかる悲惨な現実の一つ一つが、何だか取って付けたように見えてしまったことは否めない。
クライマックスのロングテイクは素晴らしかったが、それだけにその後のシリーズにとってのある種お約束とも言える“場違いな”熱いラップシーンが、少々蛇足に感じてしまった。
ただし、そういった「難色」は、シリーズ全作品を認めた上で「2」が大好きという個人的な趣向によるものであろう。
したがって、このシリーズ完結編がエネルギーに溢れた凄い映画であるということに異論は勿論無い。