8.《ネタバレ》 ジュヌビエーブ・ビュジョルドの健気な頑張りが楽しめる医学ミステリーの映画化作品。
この映画「コーマ」の原作は、ロビン・クックの医学ミステリーで、脚色と監督は、アクション小説を書き、SF小説も書き、医学ミステリーも書くベストセラー作家で医学博士でもある才人マイケル・クライトン。
ヒロインは、ボストン記念病院に勤める若い外科医(ジュヌビエーブ・ビュジョルド)で、高校時代からの親友が、簡単な手術なのに麻酔から醒めず、コーマ(昏睡)の状態のまま、死んでしまいます。
そして、次の日にも若いスポーツマンが、手術の原因不明の失敗でコーマに陥り、ジェファースン研究所という、植物人間の療養施設に送られます。
これらの事に不審の念を抱き、過去にコーマの患者が意外に多いのを知って、原因究明に乗り出す女医のジュヌビエーブ・ビュジョルド。
越権行為だと怒られたりしながら、それでも調査を続けると、命を狙われて、夜更けの病院内を必死で逃げ回ったり、換気口の長い梯子をよじ登ったり、果ては救急車の屋根に腹ばいになって逃走したりと、まるで女ジェームズ・ボンドといった大活躍をするので、楽しくてしかたありません。
しかも、このビュジョルドさん、小柄な体に思い込んだら命がけという、ヒステリックな目つきをして脅えながら走り回ったりするので、もうその健気で必死の頑張りには、手に汗を握ってハラハラしながら、応援したくなってきます。
彼女がほとんど出ずっぱりのひとり舞台なので、おかげで他の俳優さんたちは、演技のしどころがなくなって、気の毒になってきます。
彼女には同じ病院に勤める外科医の恋人(マイケル・ダグラス)がいて、彼女の引き立て役的な存在です。
そして、外科部長になるリチャード・ウィドマークが、なかなかいい味を出していて、老優、衰えず、さすがの存在感を示しています。
マイケル・クライトン監督の演出は、前半部分がかなり単調で、ラブシーンもどことなくぎこちない感じですが、さすがにスリラーとしての場面では、冴えた演出をしています。
ビュジョルドに情報を提供しようとした機械室の職員が、電流で殺されるシーンは、ハッタリが効いていて、なかなか凄まじいものがあります。
その犯人に追いかけられて、夜更けの病院内を逃げ回ったあげく、ビュジョルドが必死の反撃をするシークエンスが特に素晴らしい。
それが三分の二あたりまで進んだところで、次にジェファースン研究所へ入り込むシークエンスは、コーマの患者をワイア・ロープで吊って、宙に寝かしてある病室が、SF的風景で非常に面白いのですが、ここでの追いかけ回されるサスペンスは今一の感があります。
そこで、最後に真相がわかって、ボストン記念病院でのクライマックスになるわけですが、そこのサスペンスの演出もやはり今一なので、映画全体として尻すぼみの感じがします。
もし仮に、アルフレッド・ヒッチコック監督だったら、もっとうまく演出するのになあ---などと無いものねだりをしながら観ていました。
しかし、病院内をビュジョルドが逃げ回る場面では、拳銃を持った相手を、彼女が死人の応援でやっつけるというところは新手の手法で、一見の価値がありましたので、このようにもっと映画の細部にまで気を使って、小味なスリラーに徹すれば良かったのに、マイケル・クライトン監督のハッタリ性が、邪魔をしたような気がして残念でなりません。