1.《ネタバレ》 序盤はただのバス旅行だが、ここも個人的には結構面白い。出発地の風景はサンクト・ペテルブルグだったようで、そこから国境までは直線で150kmくらいしかないのでそれほど遠くはない。国境の手続関係は面倒臭そうだったが、ヨーロッパの内部ではすでに統合が進んでいるのに、ロシアとの間ではいまだに高い壁があるというのはロシア人も内心面白くないのではないかと想像する。
中盤からは予定どおりの惨劇が始まるが、それで特に面白くなるわけでもなく、かえって親子の会話を真面目に聞いてやるかという気になる。ラストの場面はよくわからなかったが、例えば母親はここで人を食ってしまい、息子は食わなかったことで、一度は急接近したかに見えた親子がまた別の世界に分かれてしまったと解釈できないかとも思う。母親役はそれなりの年齢だろうがなかなか魅力的な女優さんだった。
ところで自分が確認した限り、イベントでの上映を除いてこの映画が劇場公開されたのは、日本以外では当のロシアとフィンランドだけだったようである。現地で見た人々が何を思ったか不明だが、これは両国の欠点をひけらかし合っている図と思えばいいのか。ロシアはともかくフィンランドに関して言える悪口は多くないだろうが、パキスタン人が言っていたような権威主義はあるのかも知れず、また自殺者の多さという問題もある(改善されたと聞いていたが)。ロシア人にとってフィンランドは、帝政時代や冷戦期を含めて最も身近な先進地だったのではないかと思うが、こういった欠点を同じところに並べることでかえって両者の親和を図るつもりかと思えなくもない。
フィンランド人も上品な人ばかりではないだろうし、エンディングの曲がタピオラ合唱団の清らかな歌声で始まりながらクソやかましい曲に変わって終わるのも、物事の裏表というか通り一遍でない人々の実像を示しているようである。しかし劇中人物の言っていたように、この国の人は優しい(ロシア人と違う)というのは疑いようのない事実というかロシア人の正直な実感だろうと思われる。隣人は選べないのだから、どうか両国ともうまくやっていってもらいたいと他人事ながら願っている。
なお自殺に関する警察署長の演説は聞いたが、暗く陰気な冬(日照ほとんどなし)に死ぬよりも、幸せ絶頂の夏至に死ぬ方がいいと言っているなら気持ちはわかる。また老人をしつけることはできん、というのは名言である。