3.《ネタバレ》 息子を何としても弔いたい。
それは、同胞の死体処理をさせられているサウルの無意識が生んだ欲求なのだろう。
彼が弔おうとしたのは、本物の息子ではない。息子に象徴される「毎日殺されていく仲間たち」なのだから。
自分の命を危険にさらしても何としても息子(仲間)を弔う。
そうすることでしか、彼の精神は均衡を保てなくなっていたのだろう。
全編通して音楽はない。彼の背中越しからの映像が淡々と続く。
これが現実だったのだから、脚色などせずそのまま撮るのだ、という制作側の決意がうかがえる。
彼の背中越しから、彼の目を通して残酷で惨い世界が淡々と映される。
彼の心のバランスが崩れ、彼が息子の弔いのために奔走しだしても世界は淡々と残酷に続く。
救いは、見知らぬ少年を彼が息子だと信じて死んだことだ。
息子は生きていた、そう思い込んで彼は死んでいく。
でもそんな事が、果たして救いになるのだろうか。
そうこの作品は問いかけているように思った。